197話 ダレイは心配。
197話 ダレイは心配。
「偉大なるクロッカ様の御命令ですので、従わないわけにはまいりません。それは重々承知しております。……ただ、『龍神族の支配領域』で、魔人が領主・統治者となるというのは、前代未聞の話です。『魔術学院時代の知人』に話を聞いたところ、そちらの『クロッカ様の配下魔人センエース殿』が、方々で幅をきかせる事に関して、パルカ様やガリオ様は、あまりよく思われていない様子。……『センエース殿が、この村の領主になったことで、変に目をつけられてしまう』ということはないのでしょうか? クロッカ様のお話では、今後、膨大な数の魔人を、この村に移住させる予定とのこと。……そのような……いわば、『無茶なこと』をして、本当に大丈夫なのでしょうか? この村が『魔人の村』と正式に認定されることで、パルカ様や、ガリオ様が、嫌がらせとして、軍を差し向けてきて、無残な焼き討ちの目にあう……などという可能性は? 他にも、十七眷属の御方々に睨まれるようになったり……他にも、周知の町や村の住民から奇異の目で見られて迫害されたり……そういった懸念は……」
ダレイは、ダソルビア魔術学院出身。
存在値は41で、等級試験も三級には届かなかったが四級は合格しているという、なかなかの逸材。
首長に興味があった彼は、学院を卒業後、クロッカにスカウトされて、この村の実質的統治者となった(イメージ的には、東大卒のエリートが、辺境の村長になる感じ)。
一般的な村人ばかりの第三クロッカ村において、学院卒のダレイは、頭脳も実力も桁違い。
それゆえ、村人も、ダレイの命令には素直に従うし、ダレイのことを、心から信頼もしている。
村人からの信頼に対して、努力と献身で返すタイプのダレイは、
今回の件での不安を、臆さず、真摯に、
クロッカへとぶつけていく。
そんなダレイに対し、
クロッカは、
「その手の差別等がまったくないと断言はできない。というより、今後、各方面から、何かしらのちょっかいがかかる可能性は極めて高い」
そんなクロッカの発言にざわつく村人。
予想はしていたが、しかし、ハッキリとそう言われてしまうと、
流石に不安を隠しきれない。
そんな村人たちに、
クロッカは、
「ただし、私は、その手のいやがらせを『断固として許さない』と宣言しておく。今後、何かしら、不当な扱いを受けた際は、全て、ここにいるセンエースに報告しろ。……セン、あなたは、村人たちから、その手の報告を受けた際は、即時、私のもとへ連絡をいれるように」
その命令に対し、センは、
恭しく頭を下げることで答える。
クロッカは、センの態度に対し、満足そうに、一度頷いてみせてから、
村人に、
「ハッキリ言うけれど、お兄様とお父様は、私のワガママを『面倒』に思っているわ。けれど、お父様も、お兄様も、諸々の事情から、私を『切り捨てること』はできない。私の本気の訴えを無視することはできないということ」
そう言い切ってから、
「私は、今後、この村を拠点として、己の政治力を拡大していくつもり。これから、センエースと共に築き上げていく予定の特殊戦闘部隊――『センエース戦闘団』という武力をバックボーンに、自分の、龍神族内における『発言権と支配権』を高めていく予定よ。首尾よく事を運ぶことができれば、魔人の地位は確実に向上する。結果、魔人主体となる予定のこの村が、目立った迫害を受けることは少なくなるでしょう。将来的には、『単なる有能な戦力の一つ』として見られるようになり、そんな有能な魔人が主体となって結成された『センエース戦闘団』は、世界から認められ、必要不可欠な存在になるでしょう。センエース戦闘団の拠点であるこの村は、将来的に、極めて安全性の高い町として認知され、徐々に発展していく……と私は考えている」