194話 センエースの実力は、おそらく97。
194話 センエースの実力は、おそらく97。
……ルーミッドの現状の力では龍神族をトップとした『組織』に所属しなければいけないし、かつ、『無能扱いは許せない』ので、『与えられた職務』はある程度真っ当するが、
『忠誠心を軸にしたムーブ』を取ることはない。
(うーむ……)
ルーミッドは、色々と考えた結果、
(……ま、一応……言っておくか……俺は、別に、ガリオの味方じゃないが……センエースとクロッカの味方でもない)
と、考えをまとめると、
ガリオに、
「ガリオ様……最初から報告させていただいておりますが、改めて忠言させていただきます。クロッカ様の犬……センエースは、極めて大きな力を持った、危険な魔人です。先ほど、ガリオ様は、クロッカ様に、必要以上の力を与える気はないと仰っていましたが、しかし、センエースこそが、その、『かごをぶち壊し、大空へと飛び立ててしまう、必要以上の力』やもしれませんよ」
「流石に、それほどとは思えないがな……」
ルーミッドから、試験での詳細は聞いている。
ほかにも、カソルンの件や、オンドリューの件、学院での件など……センエースに関するうわさは、ある程度、耳にしている。
それら全てを総合的・複合的に判断するに、
『センエースの実力は、おそらく、90~100だろう』――というのが、ガリオの見立て。
間違いなく優秀だが、対処できないレベルではない……という判断。
「……仮に……センエースに、『大きな危険性がある』と分かったその時は、本格的に排除するだけの話。クロッカの犬が、どれだけの力を持っていようと、龍神族が総出で事にあたれば、対処できないことはない。……センエースが『本格的に危険である』と理解できれば、クロッカも、流石に犬を処分するだろう。あの子は、本当は賢いからな。実の家族であり『よりどころ』である龍神族と、魔人の犬。最終的に、どちらを取るかなど、考えるまでもないこと」
そんなガリオの発言に、
ルーミッドは、心の中で、
(……これは信頼か? それとも、家族愛? ……いや、違うな。結局、ナメているだけだ。所詮はクロッカも、龍神族という『群れ』を最優先させるはずだという甘え……クロッカの狂気が理解できていない。まあ、それは俺もそうだが……クロッカがどこまでやるつもりなのか、俺もイマイチ理解できていない。クロッカはどこまでやるつもりだ? 親兄弟を配下において、自分が頂点になる? それとも、皆殺しで完全独裁? ……まさか、龍神族という支配体制そのものを解体するつもりじゃ……流石にそれはないか? 分からんが……まあ、とりあえず、見守らせてもらおうか)
そこで、ルーミッドは、
ガリオに、最低限の職務を全うしようと、
「クロッカ様の犬センエースには、くれぐれも、お気を付けください」
と、そう言いながら頭を下げた。
その忠言は、あくまでも、最低限の職責を果たしただけ……だが、
根が臆病者のガリオは、
ルーミッドの複数回にわたる注意勧告に、少し心が揺らいだようで、
(クロッカの犬……センエースか。まあ、一度、直接、顔を見ておくか)
と、心の中で、そんな事をつぶやいた。
★
――ここは、ダソルビア魔術学院からそう遠くない小さな村。
第三クロッカ村。
クロッカが領主で、人口数十人程度の、本当に小さな村。
枯れた土地で、作物はほとんど育たないが、近くに川が流れており、裏手のコグル山ではそれなりに食べ物や薬草がとれるし、近隣でモンスターが湧く事も少ない。
時折、山で、『まあまあの力を持った鬼や魔獣』などが湧くこともあるが、
近くに魔術学院があるので、支援を要請して、すぐにかけつけてもらい退治してもらう事も可能。
領主がクロッカなこともあり、税金的にも大したことがないため、
決して豊かではないが、普通に暮らしていくだけなら問題はない、のどかな村。