192話 王は不自由。
192話 王は不自由。
「魔人が『戦力という観点』では非常に有能であることは昔から理解していた。できれば、私も、魔人を使って部隊の一つでも作りたかった……が、これまでは、メンツ(体裁)の問題で、魔人を大っぴらに使うことはできなかった。……『王族が魔人ごときを重宝する』という点でも『命を雑に使い捨てにする』と言う点でも、どっちの意味でも、メンツ的に問題があった」
王は王であるからこそ『不自由である』というのも事実。
王だからこそふるまえる自由というのも確かにあるが、
王であるからこそ『やってはいけない事』というのも存外多い。
また、魔人など、何人死のうがどうでもいいというのが、
人類の基本的な視点ではあるものの、
メンツというのは厄介なもので、
人類にとっての『都合の善し悪し』はいったん横に置かれ、
倫理だの道徳だの仁義だのモラルだの人道だの大義だの、
鬱陶しい屁理屈が関わってくる。
魔人は、忌避され、差別を受けているが、
だからといって『大っぴらに虐殺』することは、流石に問題がある。
問題があるからやらない……わけではないものの、
問題がある行為だから、問題として扱わなければいけないのが王族の責務の一つ。
そんな諸々の鬱陶しさを、
クロッカは、『愚かさをブン回す』という力技で強引に処理していく。
『メンツを保つ必要がない』からこそできる無茶。
……いや、クロッカにも、『保たないといけないメンツ』は一応あるのだが、
クロッカは『バカにされること』をいとわない、鋼のメンタルの持ち主。
だから舞える。
羨ましいほど自由に。
「……民衆に対しては、これまで通り、『クロッカというバカ娘の暴走には辟易させられる』という体を装いつつ、裏ではクロッカの自由にさせて、『センエースを頭とした魔人部隊』を運用させる。クロッカに対して恩を売れる上、もしもの時の、『失っても別に痛まない特攻部隊』を確保することもできる。本来、魔人と言えど、使い捨てにするのは問題がある行為と非難される恐れがあるが、センエース戦闘団に関して言えば、その責任の全てを、クロッカになすりつけることができる。すべてはクロッカの問題。龍神族の問題ではない。もちろん、クロッカは龍神族の人間だが、あいつが『無茶な暴走』を繰り返しているというのは周知の事実。われわれは、『迷惑をこうむった被害者』の立場であることを強調してメンツを保つ」
クロッカの暴走は、ガリオ的に、
多少のリスクはあるが、かなりハイリターンなムーブ。
だから、ガリオもパルカも、
クロッカの暴走を、『ちょこちょこ許す』のである。
『体裁が悪い』ので、『何もかも全部許す』というわけにはいかないが、
『カワイイ娘のワガママだから仕方ない』という面目で、
龍神族にとって『実は利のある、クロッカの暴走』を、
いい感じに許容していく。
クロッカは、そんな父や兄の思惑も全て理解した上で、
丁寧に『流石に聞いてもらえないワガママ』と『絶対に通したいワガママ』を使い分ける。
これまでは、両者ともに、
いいバランスで、お互いを利用しあってきた。
『地位が高すぎて、全ての行動に制限がつくガリオ&パルカ』と、
『もはや恥も外聞もないゆえ、自由に暴れ回れるクロッカ』という両者。
ガリオ的には、今後も、その関係性を維持できると思っている。
「クロッカは愚かな部分もあるが、基本的には賢い子だ。あの子は、頭の悪い無茶をしているように見せておきつつ、着実に、己の支配権を増やそうとしている。今回のように、魔人を巧みに使うというのは、総合的な視点でみると、非常に良い手だ。邪道であることは否めない事実だが、今後、あの子は、『正攻法では得られないもの』を得るだろう」