190話 邪神の伝説。
190話 邪神の伝説。
『魔人ごときが、自分とまともにやりあえる』などと、そんな侮辱……普通なら即刻斬首モノだが、しかし、ルーミッドの実力を信頼しているガリオは、
「確認するが、クロッカは、この犬に『実力で負けたわけ』ではないな?」
「流石にそれは無理でしょう。クロッカ様は、個としては、紛れもなく世界最強。あの犬は優れた実力を持っておりますが、クロッカ様に勝てるほどの器ではありません」
「……まあ、だろうな。あのバカ娘に素の実力で勝てる者などいるわけがない」
などと言いつつ、
さらに、資料を読み進めていき、
「死んだふりで試験を突破しようとする……その姑息さに関しては、まあ別にいい。問題なのは順番だ。今回のように、『死んだふりは無効』という判定がくだされる可能性は、頭のいいクロッカなら、容易に想像できたはず。あの娘は案外、世間体なども考慮して行動をしている。となれば、『自分』を先に合格させて、次に、犬でチャレンジし、ダメならダメで仕方がない……という手段を取るのが定石。あえて、犬を先に合格させ、自分は落ちた……そこにある思惑は……容易に想像できる」
「革命ですか」
「そうだ。……もちろん、『お前』が『自分』を落とすわけがない……と考えたのかもしれないが……それでも、定石では、まずは自分を合格させてからだ。あえて、頑なに、犬を先に合格させたのは……『現状の支配構造にメスを入れたい』という強い覚悟と決意の表れ」
「……」
「試験終了後……あのバカ娘から、『特級合格の祝いとして、犬に戦闘団をプレゼントしたい』という申し出があった。あのバカ娘は、確実に、犬を使って、革命を起こそうとしている。いつかは動き出すだろうと思っていたが……犬を得てからというもの、急速に準備を進め出している。それら一連の動きを見るだけでも、この犬の性能の高さがうかがえる」
「どのように対処しますか、ガリオ様」
「別に何もしない」
「……え?」
「クロッカは愚かだが……有能だ。あいつが本気で戦闘団を編成しようとすれば、それなりの特攻隊が作れるだろう。……ちょうど、私とパルカが保有している部隊『以外』で、『それなりに有能で、かつ、気兼ねなく使い捨てに出来る部隊』が欲しいと思っていたところ」
「それは……もしかして『カドヒト対策』のためですか?」
「ああ、最近カドヒトの暴走が拡大している。私とパルカがそれなりに本気で対応しているというのに、逃げ足がはやすぎて、いっこうに処理できる気配がない。カドヒトはたいしたものだ。逃げ足だけはな」
本当は『カドヒトのスペックが高すぎて対応しきれていない』のだが、
それをそのまま口にするのは、はばかられたため、
あえて『実力で倒せないのではなく、逃げ足がはやすぎるだけ』という、『純正のプライド』を口にするガリオ。
立場ある者は、なかなか、事実と向き合うことすら出来ない。
「それに、いずれ、どこかに出現するという『邪神』の対策もしたいところだしな」
「邪神……それは、ただの伝説では?」
「ただの伝説でしかないのであれば、問題は何もないからそれでいい。だが、もし、伝説が全て事実だった場合、なんの対策もしていなかったら、なすすべもなく、ただただ人類は死滅する」
『邪神の伝説』は、どの世界にも存在する。
『強大な力を持った邪神が復活し、世界を終わらせる』という終末予言。
その噂は、スライム一匹すら存在しない、あの『第一アルファ』にも存在しており、
有名なやつで言えば、『ノストラダムスの大予言』などが、それにあたる。