187話 通っていない屁理屈。
187話 通っていない屁理屈。
センは、『幻夢ランク17』と『仮死ランク18』という、
ルーミッドの視点では理解できない、超々々高位魔法を使って、
ルーミッドに『クロッカがボコられて死んだ』という幻覚を見せ、
かつ、『クロッカに殺されたセン』という状況をつくり出した。
――実際のところ、何があったのか……
少し時間を巻き戻して、ご覧いただこう。
★
「――そう思うのなら、好きにすればいい。無理強いはしない。俺は選択肢を示すだけだ。好きな道を選べ、センエース。クロッカ様を殺せば特級合格、お前が死ねばクロッカ様が合格。死にたくもないし、殺したくもないから降りる……というであれば、俺は自決して、お前らのワガママで殺された旨を世界にアピールする。さあ、どれにする? 言葉はもう十分だから、行動でしめせ」
「……なるほど。『通ってない屁理屈』を、無理に、コネ散らかしているなぁとは思っていたが……なんのことはない。俺に嫌がらせがしたいだけか」
「……ふふ」
センの指摘を前に、ルーミッドは薄く笑った。
肯定こそしないが、否定もしない。
その態度は、あんに正解だと言っているよう。
「やれやれ……めんどくせぇ」
と、センは、まるで主人公のようなセリフを吐いてから、
無詠唱で、
(幻夢ランク17)
ルーミッドに魔法をかけた。
限定的な夢を見せる魔法。
幻夢に包まれたルーミッドは白目をむいて、
その場で立ち尽くす。
そんなルーミッドを尻目に、
クロッカが、
「……? ルーミッドの目が飛んでいるんだけど、セン、あなたもしかして、何かやった?」
「はい。幻覚系の魔法を使いました。今、ルーミッドは、『俺がクロッカ様をボコボコにして殺している夢』を見ています」
「……随分と不愉快な夢を構築するわね。というか……ルーミッドほどの強者に、幻覚系の魔法を通すなんて……本当に、あなたの魔法技術は、ハンパじゃないわね」
幻覚や催眠や支配系の魔法は、一撃必殺な魔法で、強力すぎる分、対策されていることが多い。
対策などなくとも、そもそも、通すのが難しい。
存在値に、よっぽどの差があるか、よほど特化した技能を持っているか……そのどちらかの条件を満たしていない限り、幻覚系を通すのは難しい。
そっち系統の魔法は、基本、格下を数秒ほど翻弄するぐらいが関の山で、同格や格上相手にガチで使うことはまずない。
「実際のところ、あなた、どのぐらいのランクの魔法が使えるの? もしかして……ランク10の魔法が使えたりして……」
「まあ、その辺の詳細は、おいおいと言うことにしましょう」
「……」
センの頑固さが、ある程度理解できてきているクロッカは、
それ以上追及することはせず、
ため息を一つはさむだけで、
「まあいいけれど……それで、ここからどうするつもり?」
「ルーミッドから、合格の言質を取ったら、幻夢を解除しますので、そこで、俺を殺してください。これで、クロッカ様も俺も合格できます」
「……あなたに死んでもらったら困るのだけれど?」
「もちろん、死んだふりですよ。まだ死にたくないんで。……かるく腹パンしてくれたら、それでいいっす。あとは、俺が自分で『殴られたところ』を吹っ飛ばして、仮死の魔法をかけます。これで、完璧な死んだふりが出来るので、ルーミッドに俺の死を確認させて、合格の言質をとってください。これで、オールオッケーです」
「……」
「もし、ルーミッドがごちゃごちゃ言ってきたら、その時、また、俺が、魔法を使って対処しますよ。クロッカお嬢様は、優雅に、『ルーミッドが俺に翻弄されている様』だけ見ていればよろしゅうございます」
そんなセンのエスコートを前に、
クロッカは、一度、
「ふっ」
と、自嘲気味に、少し笑って、
「この試験が終わったら……あなたに戦闘団をあげるわ」