186話 合格。
186話 合格。
「センエース……お前はおかしい……いや、お前個人ではなく、魔人がおかしいのか……やはり、魔人は人とは違う……そういうことなのだろうな……」
「あなたの感想とか、どうでもいいんで、さっさと――」
「……合格だ……」
ルーミッドは、クロッカの死体を見つめながら、
消え入りそうな声で、
「お前は合格だ。誰が何と言おうと、お前が特級を合格した事実は揺るがない。けれど、それだけだ。センエース、お前はガリオ様に殺される。一対一の勝負なら、もしかしたら、お前は、ガリオ様とも戦えるかもしれない……けれど、俺はガリオ様に、俺が知っている全ての情報を伝えるから、タイマンになることはない。お前は、龍神族を敵に回した。つまりは、この世界全ての敵になったということだ。お前は死ぬ。特級を取ったことは素晴らしいが……それだけだ」
「はいはい。とにかく、合格ですね? よしっ、これで、ダルい試験、全部、終了! あー、あー、マジで、ダルかった」
うーんと、ノビをしながら、一度、解放感に浸ったセンは、
そこで、
「じゃあ、そろそろ、起きてくれますか、クロッカ様。あなたにはやるべきことがたくさんあるでしょう? 呑気に死んでる場合じゃないっすよ」
そう言いながら、パチンと指を鳴らした。
すると、先ほどセンに首をへし折られて死んだクロッカが、
ムクリと、何事もなかったかのように起き上がり、
首をコキコキっと鳴らし、
「まったく、ふざけたことをしてくれるわね」
そう言いながら、
クロッカは、右手にオーラを込めて、
「悪い犬には、オシオキよ」
などと言いながら、センの腹部に拳を叩き込んだ。
その拳は、見た感じ、そこまで重たいものでもなかったのだが、
しかし、センの腹部は、『爆弾でも仕込まれていたのか』ってぐらいの勢いで、悲惨に炸裂して、肉片がそこらに飛び散った。
センは、風穴があいている自分の腹部を見つめながら、
「な、なんじゃこりゃぁ……っ!」
と、かなり歴史ある太陽にほえている感じのファントムを口にしつつ、
その場で、バタリと、倒れこんだ。
クロッカは、そんなセンの脈をはかり、
死んでいることを確認すると、
ルーミッドに視線を向けて、
「センを殺したから、私を殺したセンだけではなく、私も合格でいい?」
などと、だいぶトチ狂った発言をぶちかます。
ルーミッドは、ごくりとツバをのみつつ、
頭の中で、
(クロッカは間違いなく死んでいた……そ、蘇生させたというのか? まさか……死者蘇生など、そんなこと……できるわけ……いや、魔法の粋を極めれば、もしかしたら、不可能ではないのかもしれないが……そんなことが、あの犬にできるわけ……)
魂魄と虚理の関係性について、魔法学の視点で、それなりに詳しいルーミッドは、
『死者の蘇生』が不可能ではないという見解をもっている。
だが、それは『神のごとき力を持っていれば不可能ではないかもしれない』という、かなりえげつない巨視的な視点での予測にすぎず、『実現できるか否か』でいえば、もちろん、当然『不可能の領域にある』と理解している。
自分の中の常識と、センエースの実力……それらを総合的に判断して、導き出した結論は以下の通り。
(……もしかして『仮死』の魔法を使ったのか? ランク7や8の、超高度な仮死を使われたら……正直、『動揺していたさっきの俺』では……見破れなかっただろう。他にも、『邪眼』や『幻夢』や『催眠』など……いくつか、『死んだと見せかける手段』は想像がつく……クロッカやセンエース級の実力者になれば、それらを駆使して俺の目を欺くことも……不可能ではないだろう……)
ルーミッドの予測は当たっていた。
一つだけ、予想と大幅に外れているところがあるとすれば、
センが使った魔法のランク。