183話 通っていない屁理屈。
183話 通っていない屁理屈。
「そう思うのなら、好きにすればいい。無理強いはしない。俺は選択肢を示すだけだ。好きな道を選べ、センエース。クロッカ様を殺せば特級合格、お前が死ねばクロッカ様が合格。死にたくもないし、殺したくもないから降りる……というのであれば、俺は自決して、お前らのワガママで殺された旨を世界にアピールする。さあ、どれにする? 言葉はもう十分だから、行動でしめせ」
「……なるほど。『通ってない屁理屈』を、無理に、コネ散らかしているなぁとは思っていたが……なんのことはない。俺に嫌がらせがしたいだけか」
「……ふふ」
センの指摘を前に、ルーミッドは薄く笑った。
肯定こそしないが、否定もしない。
その態度は、あんに正解だと言っているよう。
「やれやれ……めんどくせぇ」
と、センは、まるで主人公のようなセリフを吐いてから、
「もう、しゃーないんで、クロッカ様。どっちが死ぬか……ガチでやってみましょうか」
「は? いや、それは――」
と、普通に戸惑っているクロッカ。
彼女の覚悟が決まるのを待つことなく、
センは、
「おらぁああああああああああああああああああああああああ!」
と、ガチな目で、クロッカに殴り掛かった。
「っっ??!! ちょ、ちょっと、待ちなさい! セン!」
攻撃を回避しながら、
クロッカは、センに、
「最悪の場合、ここで死ぬのはルーミッドよ! なんで、『私かあなたが死ぬ』という選択を、あなたが取るの! ありえないでしょ! あなた、誰の味方?!」
「クロッカ様の味方ですよ。世間的にはね。実際のところどうかは、神のみぞしるところです」
などと、だいぶ歪んだことを言いながら、
センは、クロッカへの攻撃を継続する。
その様子を、ルーミッドは、ポカンとした顔で見ていた。
ルーミッドは、センが指摘したように、センに嫌がらせがしたかっただけ。
もし、可能なら、クロッカにセンを殺させて、
それが無理なら、とことん悩んでもらう……
そして、最終的に、クロッカはガリオに泣きついて……
クロッカにちょっとした枷を加える……
――みたいなことを、ルーミッドは、考えていたりもした。
とにもかくにも、センとクロッカに嫌がらせがしたかった。
ほぼそれだけが、ルーミッドの望みだったのだが、
センは、そんなルーミッドの予想に反して、
ゴリゴリの殺意をもって、クロッカに挑んでいる。
クロッカは慌てて、防御魔法を展開しながら、
「ちょっと待ちなさい、セン! あなた、本気で私を殺そうとしてない?! あなたから向けられている魔法に、本物の殺意を感じるのだけれど?!」
「だって、そういう試験だから、仕方ないじゃないですか」
「まだ、全然、その段階じゃないわよ! そもそも、ルーミッドは、いやがらせをしているだけで……おそらく、私がガリオに泣きつくことを想定して――」
と、文句を叫ぶ彼女のふところに、
センは踏み込み、彼女の目を間近で睨み、
「ごちゃごちゃうるせぇ。俺の底を知りたいんだろ? だったら、好都合じゃねぇか。いい機会だし、本気で殺し合ってみようや」
と、冷たい声音でそう言うと、
クロッカの腹部に、
「閃拳」
なかなか重たい一撃をぶちこんでいく。
「うぐぅぅ!!!」
想像以上に重たい一撃を受けて、
クロッカは、普通に嘔吐した。
同格以上に殴られる経験など皆無であるため、
体と心、両方がびっくりして、
体の反射を抑え込むことができなかった。
「げほっ、げほっ……せ、セン……あなたねぇ!!」
と、普通にブチギレるクロッカに、
センは、シレっとした顔で、
「この戦いを仕組んだのはルーミッド様なので、怒りは俺ではなく、ルーミッド様に向けてください。俺は、ただ、ルールにのっとっているだけです」
そう言いながら、センは続けて、
「深淵閃風」