180話 合格。
180話 合格。
「俺は合格……でいいですよね?」
と、確認してくるセンに、
ルーミッドは、まっすぐな視線を向けて、数秒悩む。
「不合格……と言いたいところだが、それは俺の流儀に反する」
「ほう……ということは? つまり? 具体的には?」
「……合格だ」
「あざぁまあーす!」
バっと体をくの字に曲げて礼を言うセン。
そんな深々と礼をするセンを尻目に、ルーミッドは、
(あれだけの実力を見せつけられては、さすがに一級落第というわけにはいかない……だが特級だけは取らさない。……いくらお前でもクロッカには勝てまい)
心の中で、そう言い捨ててから、
そのまま、
「等級試験最後の『特級試験』はこのまま行う。最後の試験まで残った二人で殺し合って、『相手を殺した方』が合格だ」
などと、そんな、無茶なことを言い出した。
それに対して、センが、
「殺したら合格……っすか? また、ずいぶんな試験内容っすね? 常識的に考えてそんなわけがない……という前提を踏まえて考察するに……『殺す』は比喩で、倒したら合格……そう捉えていいっすかね?」
「違う。殺したら合格だ。相手を絶命させた方が合格。死んだら不合格。不合格になった場合は、次回の等級試験で、またがんばれ」
「……おやおや。どうしました? 急に頭がバグりましたか? 死んだら次回もクソもありませんが?」
「それはそっちの都合であって、俺には関係のないこと」
「マジで急にどうしたんすか? さっきまで、そこそこ理知的に粛々と試験を進めていたのに、ここに至って、いきなり、お馬鹿さんになっているじゃないっすか」
と、そんな文句を垂れ流すセン。
センから視線を外し、ルーミッドは、心の中で、
(俺の中で、この犬……センエースに対する悪意と嫌悪が止まらない)
ルーミッドの中で、グツグツと、『強い感情』が膨れ上がっていく。
『比較的強めの精神力』で、どうにか押さえ込んでいるが、『どうしても制御仕切れない部分が漏れ出してしまう』ほどに、センエースに対する強い感情が止まらない。
そこで、クロッカが、
ルーミッドに、
「ルーミッド、話があるわ。こっちに来なさい」
そう言って、センから少し離れた場所に、ルーミッドを連れ出し、
「何を馬鹿なことを言っているの。『相手を殺さないと合格できないルール』だと、センだけではなく、私も合格できないじゃない」
「できるでしょう。あの犬を殺せばいいんです」
「………………どういうつもり?」
「この試験の試験官は俺です。俺に全ての権限がある。なのに、ここまで、善意と忠誠心だけで、あなたの意向を丸呑みしてきました。ここまでの段階で、あなたは、十分、ワガママの限りを尽くしてきた。最後ぐらい、ワガママを垂れ流すだけではなく、俺の試験と本気で向き合ってみたらいかがでしょう? それとも、俺を殺して、試験そのものを無かったことにしますか? 別にそれでもいい……と今の俺は思っていますよ」
「……」
「好きにしてください、クロッカ様」
「なぜ、急にそんな……」
「さっき、あの犬との……センエースとの戦いの中で、俺の中の何かが弾けましてね。地位も名誉もどうでもいい……とまでは言いませんが、『それよりも優先したいこと』ができてしまったので、もう、あなたの思い通りにはしません」
ルーミッドの『本音』を最初に記しておく。
彼は、クロッカやセンに、悪意をぶつけたいだけ。
つまりは、いやがらせがしたいだけ。
だから、無茶を言って困らせている。
……それだけ。
ルーミッドは、困惑しているクロッカに、続けて、
「しかし、考えようによっては、チャンスなんじゃないですか? これだけ『本気の殺意』が『前提』の試験になれば、あの犬の底が見えるかもしれませんよ」