177話 蝉の呼び声。
177話 蝉の呼び声。
「さあ、かかってきてくださいよ」
と、挑発をぶちこんでいくセン。
ルーミッドは、普通にイラっとしながら、
「……そうさせてもらおう」
いくつか、バフ系の魔法を使いつつ、
センに対して圧力をかけていくルーミッド。
自身の周囲に展開させている黒刀の数と速度を上げて、
かつ、
「連続・黒球ランク4!」
飛び道具系の攻撃魔法も駆使しながら、
センをブチ殺そうと全力投球。
ルーミッドは、一切手加減することなく、
マジで、センを殺すつもりで全力の猛攻をしかけていった。
ルーミッドの魔法を扱う技術は非常に高い。
ルーミッドの存在値は、60ぐらいで、十七眷属の中でも、数値としては、そこまで高いわけではないのだが、魔法に関する技能が極めて高いため、実際の『強さ』ではかなり上位に位置する。
戦場が整っていれば、カソルン(存在値70)を殺す事だって不可能ではない。
そんな、実のところ、強さにおいてはなかなかのものであるルーミッドだが、
センエースが相手だと、何もできずに、魔力を減らす事しか出来ない。
「へいへい! ほいほいほい!」
ルーミッドがどれだけ大量の魔法を駆使して、圧力をかけていっても、
センは、その全てを、『お遊戯ダンスで銃弾を回避する野原しん○すけ』のような、ギャグテイストな方向性で、あっさりと回避していく。
あまりにもふざけた回避を見せられて、ルーミッドの怒りメーターが上がっていく。
憤怒も魔力にぶちこんで、かなりえげつない魔法弾幕を形成する……
が、しかし、センは、ルーミッドがどれだけ大量に魔法を使ったとしても、
余裕の表情で回避していく。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
普通にMPがガン減りして、体力がかなり消耗しているルーミッド。
肩で息をしている彼に、センは、
「おや? もう終わりですか? そんなワケけないっすよね? 俺的には、まだウォーミングアップが終わっていない感じなんで、もっと、どんどん、撃ってきてほしいんですけど。さっきの弾幕の6倍ぐらいまでなら、なんとか回避できるんで、もっと、どんどん、遠慮なく、ギアを上げてください」
そんな、センのあおりを受けて、
「……」
ギリっと奥歯をかみしめるルーミッド。
その後の闘いの中で、ルーミッドは、
感情を暴走させて、魔法の質を高めようとしてみたりもしたが、
しかし、感情によるバフなんか、実際のところ、大したことはない。
気合い的なものによるバフにも、普通に限界があって、
センに通じるものではなかったので、
サクっと対応されてしまう。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁっ!!」
ルーミッドは頑張った。
これまでの人生の中で、ぶっちぎり一番の『奮闘』を見せた。
けれど、センエースが相手では何もできない。
スルスルとかわされて、いなされて、処理されて、対応されて……それでおしまい。
態度が鬱陶しいセンと、弱い自分に対する憤怒……それを底力に変えたいと思っても、『感情論変換』の経験値が乏しいので、上手い事、力に変えることができない。
『怒りをパワーに変える』という行為にも、『才能』か『努力』のどちらかが必要。
ルーミッドは、どちらも持っていない。
「うぅううう、うぁああああああああああああ!!」
ふがいなさが募る。
心が揺らぐ。
魂がたゆたう。
そんな中、
ルーミッドは、
(……ん?)
チカチカした頭が、何かを発見した。
(……ぁ、あれは……なんだ……)
自分自身の最奥。
遺伝子の中枢とも呼ぶべき場所……
『揺らいでいる無意識』の奥に……
なにか、『大きなパワー』のようなモノを感じた。
泥臭く輝いている……その塊を前に、
ルーミッドは、
(それを……俺に……)
無意識の最奥……自分の中枢で、必死になって手を伸ばす。