176話 1000年かかっても……
176話 1000年かかっても……
そして、自分の代わりに、舞台へと上がったセンに視線を送り、
「こんなところで落ちたら許さないわよ、セン」
そう声をかけると、
センは、
「そんなに重たいプレッシャーをかけないでくださいよ。あまりにビビりすぎて、失神しながら漏らしちゃいそうです」
と、あくびを噛み殺しながら、そう言った。
クロッカは、薄く微笑みながら、
センの一挙手一投足に視線を釘づける。
(ルーミッドごときじゃあ、あなたの底を測ることはできないでしょうけれど……『外からじゃないと分からない器』もあるでしょうから……その一部だけでも見せてもらうわ)
★
――軽くストレッチしているセンを、
ルーミッドは、静かな呼吸で見守っている。
センの動きは、一つ一つが洗練されている。
ルーミッドが、
「……俺はお前が嫌いだ。下手をしたら、殺してしまうかもしれない。それでも大丈夫か? 殺されたくないなら、このまま帰ってもかまわないぞ。嫌いだとは思っているが、殺したいとは思っていないからな」
と、そう声をかけると、
センは、ルーミッドの目を見つめて、
「大丈夫ですよ、ルーミッド様」
「? 大丈夫? 何がだ?」
「あなたじゃ、1000年かかっても、俺を殺すことはできない」
「……十七眷属の俺に対し……奴隷階級の魔人ごときが、よくもまあ、そんなセリフを吐けたものだ。……お前の総合的な資質に関しては、まだ判断が難しいところだが……その度胸だけは、まぎれもなく大物だ」
「度胸だけじゃないですよ。だいたいの分野で俺は大物です。才能はないし、性格も悪いですが……スペックだけは本物。それが俺です。こんにちは」
「それだけの大口を叩ける根拠……見せてもらおうか!!」
叫びながら、
ルーミッドは、センとの距離をつめた。
初手から最速・最強の一撃を放つ。
「黒刀ランク5!!」
叫ぶと、ルーミッドの周囲に、『黒の属性を持つ魔法の刃』が5本ほど展開される。
ヒュンヒュンと音をたてながら、一定の速度かつ一定の流れで、ルーミッドの周囲を、衛星のように回っている。
そんな黒刀の衛星を警戒して距離を取るセンに、
ルーミッドは、
「俺の黒刀に触れると、重度の火傷と腐敗が付与されるから、気合を入れて避けた方がいいぞ」
と、センに警告をぶちこんでいく。
暴露のアリア・ギアスをつんだことで、状態異常の付与率にバフが入る。
その一連を目の当りにしたセンは、
ニっと笑い、
「暴露のアリア・ギアスって、個人的には、マイナスの方が大きい気がしてんすよねぇ。情報なんて『与えない方がいい』に決まっている……まあ、とか言いながら、俺も暴露を積んでいくんですけどね。俺の秘密をそっと教えてあげますよ。誰にも言わないでくださいね。……実は……俺には状態異常がきかないんですよ。そういう体質なんです。生まれた時から、ずっと。……良かったですね、俺の秘密を知ることが出来て」
「……本当に状態異常がきかないのかどうか見せてもらいたいな。だから、避けずに、黒刀に触れてくれ」
そういいながら近づいてくるルーミッド。
センは、ルーミッドの周囲を回り続けている黒刀を、華麗に回避しつつ、
「ほいよっ!」
ルーミッドの腹部にヤクザキックをぶちかます。
「うぐっ!」
軽く吹っ飛ばされたルーミッドは、
腹を抑えながら、
「……状態異常がきかない……と言っている割には、黒刀を、全力で避けているじゃないか。本当にきかないなら、そんなに必死に避ける必要がないのでは?」
「効かないんですけどねぇ。反射で避けちゃうんですよ。俺の武は、あまりにも高度すぎて、もはや、無意識が先行しちゃうんすよ」
そう言いながら、『腰を落とした低い姿勢』で武を構え、
「1000年かかっても俺を殺せない……という俺の発言の真意……教えてあげますから、さあ、かかってきてくださいよ」