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175話 不敬。


 175話 不敬。


「ふふ……ああ、そう。まあ、こっちとしては、別にいいのだけれどね。……ちなみに、普通に戦ったら、結構な確率で殺しちゃうのだけれど、それはいいの?」


「もちろんダメです。私にはまだ、『あなた様の犬を採点する仕事』が残っていますので、私のことを戦闘不能にはしないでください。ルールとして、私を戦闘不能にしたら……あなた様も、あなた様の犬も、ここで不合格です」


「私を不合格にできる?」


「合格基準を満たさなかった者は例外なく不合格です」


「ガリオお父様でも?」


「ガリオ様が、等級試験で、条件を満たせないことなどありえません」


「もしもの話をしているのよ」


「もしもの話をするだけでも不敬です」


「お父様なら、呼吸をするぐらいの容易さで、あなたを殺すことができるわ。そして、決して全知全能でも、力のコントロールが完璧なわけでもない。だから、今回のような試験の場合、力加減をミスって、あなたを殺してしまう可能性は十分にありえる。この予測は、お父様が強すぎる事と、あなたが弱すぎる事が前提の『もしも』……だから、不敬という評価にはあたらない」


 そこで、ルーミッドは、少しだけ考えてから、


「……ガリオ様は不合格になりません。仮に、ガリオ様が、試験を受けた場合、『万が一にも落ちる可能性がある試験』など出しません」


「私には出しているわけだけれど、それって、私に対して不敬だと思わない?」


 そこで、ルーミッドは、ニっと少しだけ意地悪く笑って、


「俺は、ガリオ様直属の配下です。ガリオ様には、最大級の配慮をいたしますが、ガリオ様以外の方に、同じレベルの配慮をすることはありえません。……たとえ、ガリオ様のご息女であらせられるクロッカ様であっても、その前提が覆ることはありえません。もし、俺から『最大級の配慮』を受けたいのであれば……俺の直属の上司になってください。もし、あなた様が、俺の直属の上司になったあかつきには……そうですね……ガリオ様に対するものよりも質の高い忠誠心を向けさせていただきますよ」


「……ふふ。そう。それは……楽しみだわ」


 無数の含みのある対話を経て、

 両者は武を交わし合う。


 クロッカは、とことん手を抜いた上で、

 毒系の魔法なども使わず、

 ルーミッドと、丁寧な殴り合いをする。


 ルーミッドの武をかるく流し、いなしつつ、

 軽めの攻撃で、ルーミッドの対応をはかるクロッカ。


 数秒の『演武』を経て、

 クロッカが、ルーミッドの耳元で、ボソっと、


「あなた、もしかして、私で準備運動しようとしてない?」


「……」


 黙ったルーミッドを見て、

 彼の思惑を理解したクロッカは、


「ふふ」


 と、おかしそうに笑ってから、


「……いいわ。あなたとセンの本気の闘いは、私も見てみたいし……あなたの思惑に全乗っかりしてあげる。私を使って、好きなだけウォーミングアップをするといいわ」


 そう言うと、ルーミッドの身体を温めることに特化した動きを決め込む。


 5分ほどかけたことで、

 ルーミッドの身体がアツアツに温まった。


 これは、いわば、試合前の投球練習みたいなもの。

 ルーミッドの『投げ込みアップ』に付き合ってあげたクロッカが、


「もう十分でしょう?」


 と、首をポキポキっと鳴らしながらそう言うと、

 ルーミッドは、


「はい……ありがとうございます」


 そう言って、ぶんぶんと肩をまわし、

 バキバキっと両手の関節を鳴らした。


「ふぅ……」


 と、深く深呼吸している途中で、


「……あ、言うまでもないことですが、一応……クロッカ様、一級試験、合格です」


「まさか合格できるなんて夢にも思っていなかったから、とても嬉しいわ」


 と、軽やかなジョークで、場を流してから、

 クロッカは、舞台グラウンドからおりる。



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