174話 『認める』の基準。
174話 『認める』の基準。
「勝てば合格ですか?」
と、かなり慎重に、下手に出て質問をするビシャ。
なんせ、相手は十七眷属なので、雑な言動はできない。
「一級試験において、そんな内容は許されない。俺に勝てるなら特級を与えないといけないから。俺は、試験の難易度というものを適正に設定する。それが俺のプライドだ」
「……文句を言うわけではないのですが……先ほどの二級試験のペーパーテストは、理不尽な難易度だったと思うのですが?」
「五割で合格と言ったが、実際の合格ラインはもっと低い。というか、独自の魔法理論を展開してもらい、それが、俺の中での『二級合格ライン』に達していたら合格にする予定だった。お前たち3人以外は、はなから試験を投げていた。だから不合格にした。それだけの話だ」
その話を聞いたビシャは、
試験を投げた兄に、軽くイラっとした。
センエース直属の配下は、出来るだけ、等級が高い方がいい……という想いから。
ただ、同時に『兄は魔法が得意じゃないから、投げていなかったとしても、合格ラインには達していなかったかも。今回は試験運が悪かった』とも思ったりもする。
そこで、ビシャは、
「ちなみに、……ルーミッド様。『認められる』というのは……基準としては、どういうところにあるのでしょうか? ちょっと、曖昧すぎて、戦い方が分かりません。なるべく、ルーミッド様にダメージを与えたら合格ですか? それとも、制限時間一杯、生き残ることができたら合格ですか?」
「……ごちゃごちゃ、くだらないことを考えず、ただただ『本気』を見せろ。どう闘うかを指定したりはしない。あえていうなら自由だ。お前の力のほどを総合的に判断して合否を言い渡す」
(本気ねぇ……さて……どうしたもんやろうか……正直、ルーミッド程度が相手やったら普通に勝てるんやけど……流石に、勝ったらまずいんよなぁ……)
この試験の内容は、ビシャ的に最悪。
勝つのは論外だし、ガリオの直属十七眷属であるルーミッドに、本来の力がバレるのもまずい。
(そもそも、一級を取ることに問題があるかも……二級ぐらいにとどめといた方がええか……それとも、もう、ぶっちぎって特級まで取ってしまった方がええか……難しいところやな……)
などと思ったりする。
魔人が一級や特級を取るのは、色々と問題があるかもしれない。
センエースだけならともかく、その配下も……となると、流石にどうだろう……
色々と悩んだすえに、
ビシャは、
(……まあ、今のところは、このあたりが潮時かなぁ……)
と、結論を出した上で、
ルーミッドとのタイマン試験に挑んだ。
闘いの中で、
ルーミッドは、
(……このメスガキ、思ったよりもだいぶ強いな……力を隠していたのか……存在値的に50あるかないか……非常に優秀……ただ、『一級合格できるレベル』には『ギリギリ達していない』か……)
冷静に、差別なく、自分の中の基準に照らし合わせ、正確に判断した結果、
「……不合格だ。有能であることは認めるが、一級を与えることはできない」
そう判断を下したルーミッドに対し、ビシャは、心の中で、
(……まあ、妥当な判断やな)
と、つぶやきつつ、不合格判定を素直に受け入れた。
★
――『ビシャの判定を終えたルーミッド』は、そのまま、
クロッカとの闘いに挑む。
ルーミッドの前に立ったクロッカは、微笑を浮かべ、
「私は、闘うまでもなく合格じゃなくて?」
と、お上品に疑問を投げかけると、
ルーミッドは、まっすぐな目で、
「ここまでの試験では、『受かって当然』という前提があったので、ある程度、流し気味でも問題ありませんでしたが……流石に、『一級試験』まできたら、そういう『なあなあ』な対応をするわけにも参りますまい」