173話 革命の定義。
173話 革命の定義。
――仮に『家を建てる』という作業で例えるが、クロッカは『壁紙は白の方がいいですわ』『カーテンは赤の方がいいかも』とワガママを言うぐらいが限度で、それ以外の、間取りであったり外観であったり、そういった根本的な部分に対する口出しは出来ない状況にある。
そんな、ある種理不尽な『力関係』にテコ入れを入れる……という『革命』なら、やり方次第で、成功しなくもない……
というのが、ルーミッドの読み。
つまりは、常識的な読み。
ルーミッドは、まだ、クロッカを誤解している。
というよりも、まさか、本気で『家族全員を皆殺しにして、完全なワントップ独裁体制にしていくつもり』だとは思わない。
『クロッカが起こそうとしている革命』は、あくまでも『発言権を高めるための闘い』に過ぎない……そんな『認識の齟齬』が、『全員(ガリオもパルカも、十七眷属も、民衆も)』の中で、共通しているからこそ、『クロッカが革命を起こそうとしているかも』という噂が広がっていながら、クロッカが処罰されることもなく、放置されている理由。
『まあ、今の段階だと、自分の発言権が少なすぎるから、それを増やしたいと思うのは当然だよね』
『クロッカ様は実力的に優れているし、もっと高い地位につきたいと思うのも当然』
と、『周囲の者(民衆ふくむ)』は認識しており、
ガリオやパルカも、
『まあ、その野心は買ってやってもいい。なんなら、発言権を増してやってもいい』
『そのための闘いを起こすつもりなら、相手になってやろう。もし、うまいこと、その革命を果たせたなら、支配権を拡大してやってもいい』
などと、娘・妹の発奮に対し、ある種、『帝王学的な肯定』を示している。
むしろ、兄や父は、『王族に産まれていながら、権力を求めないような軟弱者でなくて良かった』などとも思っているぐらい。
(あの犬……おそらく、まだまだ底力を隠している。魔法に対する理解は、魔法の精度を底上げしてくれる……あの犬が魔法学をどこまで理解しているのか知らんが……俺以上に、魔法をうまく扱えるのは間違いない)
常識的な思想の中でクロッカを誤解しているルーミッドは、
どこかで、クロッカを応援しているところもあったりする。
クロッカはワガママお嬢だが、悪い人間ではないし、
ルーミッドに対して、無茶な要求をしてきたりもしない。
上司として考えると、そこまで悪くない相手。
もし、クロッカの権利が増して……もし、自分の直属の上司がクロッカに変わったら……と想像したルーミッドは、
『まあ、別にそれでもかまわない。なんだったら、ガリオよりもいいかもしれない』
なんてことも考えてしまう。
ゆえに、センエースのことをどうするべきか、少し悩む。
『あれは流石に危険な存在だから、ガリオ様の権限で処罰すべき』という報告をすべきかもしれない……と悩む一方で、
『あの犬がいれば、クロッカ様の革命が、うまいこと果たされるかもしれない』などとも思う。
それを無理して邪魔したいとは思っていない……というのも、ルーミッドの本音。
冷静になった頭で、今後の行動について悩む。
どうするべきか。
何をなすべきか。
色々と悩んだ末に、
「自分自身の目と体で確かめてから……決めるか」
そういう決断を下した。
★
休憩時間が終わって、
一級試験が始まった。
壇上に立つルーミッドは、ここまで残った3名に対し、
「一級試験の内容は、俺とのタイマン。俺に認められれば合格。持ち時間は一人20分。順番は、ビシャ、クロッカ様、センエース。以上」
淡々と事務的に説明すると、
そのまま、グラウンドへと出て、
ビシャと向かい、
「さあ、かかってこい。お前の力を見せてみろ」
そう言いながら武を構えた。
そんなルーミッドに、
ビシャは、
「すいません。少し質問したいのですが……勝てば合格ですか?」