170話 センエースの高み。
170話 センエースの高み。
(……魔人は、人間の道具に過ぎない……だから、人間以上の魔人はいてはいけない……それが、社会的な視点……)
これは、現代人が『人間以上のコンピュータ』に恐怖を覚えるのと似たような感覚。
……ルーミッドの『魔人に対する嫌悪感』は、いわゆる『常識の範囲内』におさまるもので、『過剰に嫌悪し忌み嫌う』ということはない……が、ビシャぐらい高性能な魔人を見てしまうと、さすがに強い嫌悪感を抱いてしまう。
ルーミッドの、現状の心境を例えると、『普通のサイズのゴキブリなら踏みつぶせるという者でも、子犬ぐらいの異常なサイズのゴキブリを見てしまえば、流石に悲鳴を上げてしまう』……といった具合。
――ちなみに、そんな、『一般社会の人間の恐怖』も理解できているビシャは、
実のところ、この試験でも実力を抑えていた。
……彼女の本来の実力だと8割は確実に取れる。
だが、ルーミッドに、必要以上に警戒されないよう、
6割ぐらいに抑えているのである。
と、そんな風に、ビシャやルーミッドが色々と考えている視界の片隅で、
センは、
「zzz……」
と、机につっぷし、すやすや眠っていた。
その様を見たルーミッドは、
(……メスガキ魔人は妙な性能をしているが……こっちの『駄犬』の方は、思った通りの脳筋バカだったか……先天的に、魔法を扱う能力は高くとも、それを理解する頭はない……思った通り)
センの愚かさを鼻で笑う。
今回の試験は、人間の中でも魔法学だけに特化して、数十年単位で研究し続けている『学者の上澄み』でなければ解けない内容。
そんな『異常難易度のテスト』とまともに向きあえているビシャとクロッカがバグっているだけで、『解けない方』がむしろ普通。
そんなことは分かっているが、
しかし、センのことが、魔人どうこう関係なく嫌いになってきているルーミッドは、
前提以上に、センのことを心の中で小バカにしていく。
(偶然、『頭のおかしい龍神族』に目をかけてもらって、幸運にも飼ってもらえている……というだけの異常性格&病気持ちの駄犬。吠える声だけは無駄に大きいが、知性に関してはからっきし。ゴミめ。ふふ)
と、心の中で笑いつつ、吐き捨てながら、
寝ているセンの元まで近づいていく。
そして、センが裏返しにしている答案用紙を手に取って、ひっくり返して、中を確認する。
ルーミッドの予想としては、白紙……もしくは、アホなラクガキでうめつくされている……そのどっちかだった……
……が……
「……え……」
つい、困惑を、『そこそこのボリュームの声』に出してしまったルーミッド。
その声の絶望感があまりに深かったので、
その場にいるセン以外の全員の視線が、ルーミッドに突き刺さる。
皆の困惑の視線を背中に浴びているルーミッド。
その手の中にある、センの解答用紙は……ルーミッドの身体の震えによって、ぐしゃぐしゃになっていく。
ごくりとツバを飲み込むルーミッド。
隅々まで、センの解答用紙を確認したルーミッドは、
(虚理の処理過程における理解が……現状の解明領域を大幅に超越している。マナ循環機構に関する個々の計算式も完璧……未知数だった定理や公式も全て……え? な、なんだ……俺は……夢を見ているのか?)
仮に、『現状のセンの答案』の出来を例えるなら、
フェルマーの最終定理が、まだ解かれていない時期に、
『フェルマーの最終定理が、なかなか証明できない理由を論じろ』
という問題に対し、
『~~こういう理由で難易度が高いため、証明するのが難しいが、~~という形で証明可能』
みたいな解答をした感じ。