169話 魔法学の真髄。
169話 魔法学の真髄。
特に頭がいいわけでもない、ゼック、バリソン、ジバの三名も、
この試験を前にしては、頭を抱える事しか出来なかった。
まあ、とはいえ、ゼックもバリソンも、三級試験を突破している段階で、目標は達成しているので、そこまで絶望しているわけではなかったが。
ただ、ジバは、
(できれば、特級に受かりたかったんだが……これは、無理だな……)
存在値的には、特級合格も可能な実力者ジバ。
しかし、今回は、試験内容に恵まれなかった。
もっと言えば、センがルーミッドに嫌われ過ぎた。
本来の二級試験は、もっと、肉体能力が生かせる試験内容だったのだが、
どうしてもセンを落としたくなったルーミッドによって、
今回のような、理不尽な内容に変わってしまった。
頭を抱えることしか出来ないジバたちを尻目に、
試験監督を務めているルーミッドは、満足げな顔で、
(魔法学の最高峰……一般レベルで、これほどの学理を解することは不可能)
そこで、チラっと、クロッカの答案用紙を覗き見るルーミッド。
ほかの面々と違い、
クロッカは、なんとか、解き進めていた。
(……ふむ……流石、龍神族の天才児……存在値的に有能であることは知っていたが……ここまで、頭の出来が良かったとは思わなかった……)
クロッカのスペックの高さは、実際のところ、バグレベル。
変態的に高潔であるがゆえに、この世界では浮いているが、
もし、まともな世界で生まれていたら、
歴代最高のスペックを誇る女王として世界中の人間から慕われ崇拝されていただろう。
(まあ、このキチ○イお嬢様のスペックが並外れていることは最初から分かっていたから、別に、驚きはしないが……ん?)
そこで、ルーミッドは、
ビシャの答案用紙を見て眉間にシワを寄せた。
(……こ、この魔人のクソガキ……なぜ、魔法学の粋を理解している……)
ビシャは、クロッカほどの精度ではなかったが、
それなりにしっかり、問題と向き合うことができている。
見た感じ、クロッカが80点ぐらいで、
ビシャが60点ぐらい。
(この魔人のメスガキ……い、いったい何者だ……何か、魔法でカンニングでもしているのか? クロッカの答案を覗いているとか……)
そう疑ったルーミッドは、
魔法を使われていないか、探査するのと同時に、
クロッカとビシャの答案を、何度も、見比べる。
その結果、
(カンニング系の魔法が使われている様子はない……それに……この二人の解答はまったく違う……『根本的な理解度』や、アプローチ方法は、似ているところがあるが……回答の手順は、全く違う……)
ビシャとクロッカの解答……それを、無理に例えるなら、
太宰の文学的思想を論じる際に、
ビシャは、『人間○格』の観点から論を進め、
クロッカは『走れ○ロス』の観点から論を進めている。
……みたいな感じ。
結論やアプローチの仕方に『姉妹』や『親子』のような、性格的な類似点が見られるものの、解答の枠組みが、普通に異なるので、
この答案用紙を並べた際に、
『どちらかがどちらかをカンニングしている』
と結論づけるのは、非常に難しい……
というか、絶対にムリ。
『ビシャはカンニングをしていない』……という結論に達したルーミッドは、
(このメスガキ……どういう……まさか、魔人の中の『天才児』・『突然変異』的な何かか? ここまでの試験内容・結果・行動から推察するに、こいつの存在値は40前後……この年齢で考えれば、かなり高い。……存在値も頭の出来も優れている魔人……社会的には、受け入れがたい存在だ……)
高性能な魔人……という存在は、
人間社会の視点で言うと、『よろしくない異物』である。
そこそこ有能……までなら『高性能な奴隷』という解釈で受け入れられるが、
『上級国民が嫉妬するレベルの逸材』……というのは、
正直いって、邪魔な存在である。
そんなものはいてはいけない。