166話 もろもろうまいこと、自由にしろ。
166話 もろもろうまいこと、自由にしろ。
「どけぇええ!」
「ラス一人ではなく、全員を相手にしていると思った方がいい」
そう言いながら、ハロは、ゼックの腹部に拳をぶちこんでいく。
「ぐふっ……く、くそぉおお!」
と、そこで、
「手を貸すぞ、ゼック!」
「後衛は任せろ」
「ぶちかましてやれ」
ほかの受験生数名が、ゼックの手助けにきた。
人格がまともなゼックは、周囲の冒険者仲間から、そこそこ慕われている。
ゼックの知り合いだけではなく、
ほかの受験生も、
ラス&ハロを叩き潰すために、
この戦場へと参戦。
大乱闘になっている現場。
ほかにも、バリソンやビシャあたりがねらわれている。
ビシャは、ここまで、かなり力を抑えて試験に参加していたので、他の受験生からは『ねらい目』だと思われている様子。
『ビシャの護衛に徹しているジバ』が、かなり鬱陶しいが、かいくぐって叩き潰すという道はワンチャンある……と思われている。
ただ、彼女の『本当の存在値』は80を超えているので、
存在値40以下の連中など、いくら束になってかかっても問題なく処理できている。
正直、『ジバの護衛』などいらない。
彼女は一人で、何でもできる。
……ちなみに、ビシャの護衛は、現状、ジバだけではなかったりする。
もう一人のビシャのタンク役……それは、バリソン。
ビシャを背負いながら、バリソンは、
「魔人のメスガキ、お前、なかなか質が高いな! このまま盾役をやってやるから、その調子で、あいつらを叩き潰せ。全員で合格するぞ!」
勝手にビシャ&ジバと共闘状態にしていく。
そこで、ビシャは、チラっと、センに視線を送った。
『王よ、この状況、大丈夫ですか?』
という、おうかがいの視線。
その視線に気づいたセンは、
スっと視線を外して、丁寧なシカトを決め込んだ。
そのシカトの意味を、『もろもろうまいこと、自由にしろ』という命令だと認識したビシャは、そのままバリソンを盾役として活用しつつ、他の受験生たちを削っていく。
言うまでもないことだが、ジバは、そんなビシャを援護している。
バリソンのことはどうでもいい……と、ジバは思っているが、『ビシャの盾として頑張ってくれている』ので、一応、ちゃんと、共闘している。
バリソンは、性能もそこそこ高いので、特に邪険に扱う必要もない。
妹の盾として、都合よく利用している感じ。
ケイルスとコータスとサバンスは、
『ダソルビア魔術学院一組上位』という情報が出回っているので、
狙われることはなかった。
むしろ、ケイルスたちは、積極的に、受験生たちを狩っていく側。
ビシャ&ジバ&バリソンや、ラス&ハロから球を奪い取ろうと頑張っている受験生たちの背後をついて数を減らしていくと言う優雅なムーブ。
「おい、やめろ! 魔術学院のエリートども! お前らのことは狙っていないだろう!」
そんな受験生たちの悲鳴に対し、
ケイルスは、シレっと、
「ラスたちを倒したあとは、こっちにも目が向くだろう? クロッカ様の従者として、三級は確実に取っておきたいので、あなた達には、確実に脱落してもらう」
それぞれが、うまい具合に連携して、
受験生たちをシバきまわっている。
ラスたちは、『自分たちの合格を守る』という点で意識が合致しており、正しく連携できているが、
ほかの受験生たちは、『周囲を蹴落としてでも、自分が合格してやる』という意識で挑んでいるので、正しい連携は産まれず、結果、あちこちで、ちょくちょく仲間割れや足の引っ張り合いなどが起き、勝手に自滅していた。
そんな、自滅しまくっている受験生たちの中で、
唯一、華麗な連携を見せているのが、
ゼックと愉快な仲間たち。
もはや、ここまでくると、『ゼックの冒険者仲間たち』は、
自分が合格することは諦めており、
『どうにかゼックだけでも合格させよう』と、
献身的に奮戦していた。