164話 合理的な採点。
164話 合理的な採点。
軽く涙ぐんでいるバリソンの視線の先で、
センが、ゼックに、
「俺の査定、何か間違っているか? 反論があるなら受け付けるぞ、全力で論破してやる」
「ぐっ……」
バリソンに才能があることは、ゼックもわかっている。
ここ数年、スランプで伸び悩んでいたが、
この試験で、センと戦ったことで、
潜在能力の解放が起き始めている。
近い将来、ゼックは、バリソンに余裕で抜かれるだろう。
だから、バリソンの評価に関して、ゼックは文句がなかった。
しかし、ラスに関しては違う。
「ば、バリソンに関しては分かったが……しかし、そ、そこのガキは! まだ年齢的に若いから、もちろん将来性はあるだろうが、しかし、今の実力は普通に足りていないだろう! そのガキを合格にするぐらいなら俺の方が――」
「ラスは俺の教え子だ。つまりは俺の身内。俺は身内を全力で贔屓する。『俺のことを、犬だの、クソ魔人だのと蔑んでくる不愉快連中』と『俺を慕っているカワイイ身内』……どっちを優先させるかなど言うまでもないこと。それが普通の感情論だ。俺は理不尽が嫌いだが、普通の感情論は、理不尽でもなんでもない。俺に嫌われるような行動ばかりとっていたヤツが、俺に優遇されるわけねぇっていう、至極当然の話」
そんな、センのもっともな発言に対し、
ゼックは、
「お、俺は、ここまで、お前に対し、特に何も言っていないぞ!」
その発言は、取り繕っているんではなく、まっすぐな事実。
ゼックは、人格的に、かなりまともな方であり、
これまでの人生においても、特に魔人を迫害したことなどはない。
至極まっとうに、こつこつ、地道に、冒険者としてキャリアを積んできた男。
実は、そのことを、センは理解している。
だから、
「合格できるヤツの数が11人だったら、お前も合格だった。しかし、この試験においては10人が限界。それだけの話だ」
その発言に嘘はない。
事実、センは、今回の合格者最大数が11人だったら、最後の一人にゼックを選んでいた。
テキトーにやっているように見えて、
実は、案外、細かく、キッチリと、受験生全員を査定していたセン。
『試験官ごっこ』とは言いつつも、
その査定の精度に関しては、実のところ、
ルーミッドよりもはるかに正確で精細。
「……『俺の人生とは関係ない8点のヤツ』と、『俺の身内である7点のやつ』……感情論先行で後者を選んだ。それが、今回の査定だ。世の中ってのは、そういうもんだ。以上。はい、論破」
「じゃ、じゃあ……俺も、あんたの身内になれば……俺を選んでくれるか?」
と、ゼックが、そんな交渉を開始した。
「ほう……なかなか面白い切り口じゃないか」
と、センがゼックと交渉しようとしたところで、
「いつまで、ダラダラ喋ってんだ、ぼけぇえ! いいから、球、よこせぇええ!!」
『受験生の中の一人』が、そう叫びながら、
センに向かって突撃をかました。
この中だと、ゼックに続く実力者。
存在値的には39ぐらいで、バリソンと大体同等。
プライドが高く、自信過剰で、差別思想が強く、これまでの人生で魔人をオモチャにしたことが何度もある典型的な、ヤンキー冒険者。
センは、
「主役(俺)がまだ喋っている途中でしょうが!」
と、叫びながら、
突進してきた彼の頭を、ムンズと掴み、
よどみない流れの中で、
掴んだ頭を、地面に向けて、豪快にたたきつける。
ズガボォオオン!!
と、まあまあ豪快な音が響き、
ヤンキー冒険者は一瞬で気を失った。
「主役の邪魔をするような、モブの風上にもおけないカスは問答無用で消す。それが主役の流儀だ。わかったか? って、聞こえねぇか。もう意識のかけらも残ってねぇもんな」
そう言いながら、気絶しているヤンキー冒険者の頭を足で踏みつけつつ、
ほかの冒険者に、
「ルール説明の前にハシャいでしまったコイツは失格だが、てめぇらにはまだチャンスが残っている。今から、『てめぇらが合格できる、唯一の条件』を言うから、耳かっぽじれ」