表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

163/211

163話 教え子だけ贔屓。


 163話 教え子だけ贔屓。


「おい! クロッカ様の犬が、球を全部あつめているぞ!」

「あのクソ魔人、マジか!」

「ナメた真似ばっかりしやがって!」

「いい加減、我慢の限界だ!」

「全員で囲って殺してしまおう!」

「そのあとで、あの犬を殺した貢献順に、球を分配すればいい!」

「ちょっと待て、さすがにクロッカ様の犬を、クロッカ様の前で殺すのは――」


 などと、ごちゃごちゃ言いながら、魔法障壁の中へとぞろぞろ入場してくる受験生たち。


 センは、とりあえず、一旦、バリソンの呪縛を解除してから、


「それではこれより、第二次試験官ごっこを開始しようか」


 首をゴキゴキっと鳴らしてから、

 黒い笑顔で、受験生たちに、


「センエース試験のルールを説明する。俺に選ばれたやつは、球をもらえる! しかし、試験終了5分前まで、ルーミッド様に球を届けることはできない! あとはわかるな!」


 つまり、センに合格と認められた者であっても、

 試験終了5分前までは、ここで、他の受験生たちから、球を守らなければいけないということ。


「ビシャ、ジバ、ハロ、ラス! お前ら、合格だ! 球をくれてやる」


 そう叫びながら、パチンと指をならす。

 すると、地面に転がっている球が、蹴飛ばされたみたいに、ヒュンっと跳ねて、ビシャ、ジバ、ハロ、ラスのもとへと飛んでいった。


 パシンと、球を掴むビシャたち。

 おのおの、少しだけ困惑したものの、とりあえず、なくさないように、アイテムボックスへとしまい込んでいく。

 その様子を尻目に、

 ケイルスが、


「自分の教え子だけ贔屓するとか……それ、どうなの?」


 と、文句を言ってきたので、

 センは、シレっと、


「実力のあるやつは合格させる。当然だ。理不尽は好きじゃないんでね。そして、教え子は贔屓する。当然だ。命の価値は平等じゃねぇ。身内にだけ甘くなるのが人として当然。誰にでも平等な博愛とか、意味わからん」


「……」


「あと、1組のコータスとサバンス! お前らも合格だ! 流石に、てめぇらは優秀と言わざるをえねぇ!」


 いいながら、パチンと指を鳴らすと、

 先ほど同様、地面に転がっていた球が、

 二人のもとへと跳ねて飛ぶ。


「……えっと、これで、ハロ、ラス、ジバ、ビシャ、ケイルス、コータス、サバンス、俺、クロッカ様、バリソンくん……うん、10人だな」


 と、そんな事を口にしていると、

 そこで、受験生の中の一人、

 存在値40で50代後半の冒険者『ゼック』が、


「待て待て! なんで、そいつらが合格で、俺が選ばれていない?! すくなくとも、そこのガキや、バリソンよりも、俺の方が上だぞ!」


 ラスやバリソンを指差しながら、

 自分の方が上だと叫ぶゼック。


 実際、その通り。

 バリソンは存在値39で、ラスにいたっては存在値35。


 ゼックは、何も間違ったことを言っていない。

 むしろ、かなり正確にものごとをはかっている。

 ちなみに、残っている者の中だと、バリソンはともかくとして、ラスより存在値的に上の者は何人かいる。

 そいつら全員が、センの合格基準に対して一斉に文句を口にした。

 やいのやいのやかましい中、

 センは小指で耳をほじりながら、


「バリソンとラスは将来性が高いと査定させてもらった。バリソンは、いい年齢だが、しかし、まだ伸びる。当人は、スランプを感じていて、現状が限界だと勘違いしている節があるが、実際のところ大器晩成型で、魔法適正が高く、かつ、胆力も高め。質はかなり高い。潜在能力的には、お前らより上だ。将来的には、存在値50ぐらいになるんじゃねぇかな」


 そんなセンの発言を受けて、バリソンが目を丸くして、センを見つめていた。

 これまでの人生で、そこまで高い評価を受けたことはなかった。

 もちろん、存在値的に、そこそこ高いので、これまでの人生で、それなりに『使える便利屋』として重宝されてきたが、センほど高く自分を評価してくれた者は一人もいなかった。

 どこに行っても『小器用で有能だが、大物にはなれない』という評価ばかり。

 だからだろう……バリソンくんは、かるく涙目になった。

 何十年も生きていると、ふとしたことで、妙に感動してしまう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ