163話 教え子だけ贔屓。
163話 教え子だけ贔屓。
「おい! クロッカ様の犬が、球を全部あつめているぞ!」
「あのクソ魔人、マジか!」
「ナメた真似ばっかりしやがって!」
「いい加減、我慢の限界だ!」
「全員で囲って殺してしまおう!」
「そのあとで、あの犬を殺した貢献順に、球を分配すればいい!」
「ちょっと待て、さすがにクロッカ様の犬を、クロッカ様の前で殺すのは――」
などと、ごちゃごちゃ言いながら、魔法障壁の中へとぞろぞろ入場してくる受験生たち。
センは、とりあえず、一旦、バリソンの呪縛を解除してから、
「それではこれより、第二次試験官ごっこを開始しようか」
首をゴキゴキっと鳴らしてから、
黒い笑顔で、受験生たちに、
「センエース試験のルールを説明する。俺に選ばれたやつは、球をもらえる! しかし、試験終了5分前まで、ルーミッド様に球を届けることはできない! あとはわかるな!」
つまり、センに合格と認められた者であっても、
試験終了5分前までは、ここで、他の受験生たちから、球を守らなければいけないということ。
「ビシャ、ジバ、ハロ、ラス! お前ら、合格だ! 球をくれてやる」
そう叫びながら、パチンと指をならす。
すると、地面に転がっている球が、蹴飛ばされたみたいに、ヒュンっと跳ねて、ビシャ、ジバ、ハロ、ラスのもとへと飛んでいった。
パシンと、球を掴むビシャたち。
おのおの、少しだけ困惑したものの、とりあえず、なくさないように、アイテムボックスへとしまい込んでいく。
その様子を尻目に、
ケイルスが、
「自分の教え子だけ贔屓するとか……それ、どうなの?」
と、文句を言ってきたので、
センは、シレっと、
「実力のあるやつは合格させる。当然だ。理不尽は好きじゃないんでね。そして、教え子は贔屓する。当然だ。命の価値は平等じゃねぇ。身内にだけ甘くなるのが人として当然。誰にでも平等な博愛とか、意味わからん」
「……」
「あと、1組のコータスとサバンス! お前らも合格だ! 流石に、てめぇらは優秀と言わざるをえねぇ!」
いいながら、パチンと指を鳴らすと、
先ほど同様、地面に転がっていた球が、
二人のもとへと跳ねて飛ぶ。
「……えっと、これで、ハロ、ラス、ジバ、ビシャ、ケイルス、コータス、サバンス、俺、クロッカ様、バリソンくん……うん、10人だな」
と、そんな事を口にしていると、
そこで、受験生の中の一人、
存在値40で50代後半の冒険者『ゼック』が、
「待て待て! なんで、そいつらが合格で、俺が選ばれていない?! すくなくとも、そこのガキや、バリソンよりも、俺の方が上だぞ!」
ラスやバリソンを指差しながら、
自分の方が上だと叫ぶゼック。
実際、その通り。
バリソンは存在値39で、ラスにいたっては存在値35。
ゼックは、何も間違ったことを言っていない。
むしろ、かなり正確にものごとをはかっている。
ちなみに、残っている者の中だと、バリソンはともかくとして、ラスより存在値的に上の者は何人かいる。
そいつら全員が、センの合格基準に対して一斉に文句を口にした。
やいのやいのやかましい中、
センは小指で耳をほじりながら、
「バリソンとラスは将来性が高いと査定させてもらった。バリソンは、いい年齢だが、しかし、まだ伸びる。当人は、スランプを感じていて、現状が限界だと勘違いしている節があるが、実際のところ大器晩成型で、魔法適正が高く、かつ、胆力も高め。質はかなり高い。潜在能力的には、お前らより上だ。将来的には、存在値50ぐらいになるんじゃねぇかな」
そんなセンの発言を受けて、バリソンが目を丸くして、センを見つめていた。
これまでの人生で、そこまで高い評価を受けたことはなかった。
もちろん、存在値的に、そこそこ高いので、これまでの人生で、それなりに『使える便利屋』として重宝されてきたが、センほど高く自分を評価してくれた者は一人もいなかった。
どこに行っても『小器用で有能だが、大物にはなれない』という評価ばかり。
だからだろう……バリソンくんは、かるく涙目になった。
何十年も生きていると、ふとしたことで、妙に感動してしまう。