162話 俺は嘘をついたことが一度もない。
162話 俺は嘘をついたことが一度もない。
「それを理解した上で行動しろよ、ケイルスちゃん」
「……」
「8……7……」
と、優雅にカウントダウンをしているセン。
ケイルスは、最初の数秒、センに、訝しげな目を向けていたが、
(……この犬の場合……本当に砕きそうだ……)
『くれる』という言葉は今でも信じられないが、
『砕く』という言葉は100%の精度で信じることが出来た。
『その歪な信頼』を『キモい』と思いつつも、
ケイルスは、
「……ちっ」
舌打ちしつつ、警戒心MAXのまま、
センに近づき、
センが差し出している『ケイルスの名前が書かれた球』に手を伸ばす。
『取ろうとした瞬間に、何かワナを発動するつもりなのだろう』……と、めちゃくちゃ警戒していたのだが、
しかし、
「……え……」
ケイルスが、センの手から球をとっても、センは何もしなかった。
「まさか、本当にくれるのか?」
「そう言っているだろう。俺は嘘をつかない。嘘をついたことが、人生で一度もない。この先の人生でも、絶対に嘘をつかない。絶対にだ。ちなみに言っておくと、俺は女性経験が世界一豊富だ。かつては、ヤリチン閃ちゃんと呼ばれていた」
と、盛大な嘘をつくセンに、
ヤバいやつを見る目を向けるケイルス。
(と……とことん嫌いだ……この男……頭がおかしすぎる……)
しんどそうに、心の中でつぶやきつつ、
センから回収した球に何か呪いでもかかっていないかとチェックしてから、
自身のアイテムボックスにしまい込む。
そして、クロッカにチラっと目線を向けて、
「……ここまできて、まだ、この犬を駆除する気になりませんか、クロッカ様」
そう言われたクロッカは、
おかしそうに、鼻で笑ってから、
「まだしばらくは飼っておくつもりよ」
「……はぁ……」
と、ケイルスは、一度、深いため息をついてから、
「私は、この犬を嫌っていますが、しかし『だから排除しろ』と言っているのではありません。そういう感情的な話ではなく……本気で心配して言っているのですよ。この犬が、スペック的に、それなりに優秀であることは認めます。確かに、高性能だ。けれど、あまりにも諸刃の剣。デメリットが、メリットを上回りすぎている。この犬は、あなたにとって足かせにしかならない」
「分かっているわ、ケイルス。あなたの忠誠心を疑ったことはない。魔術学院でいつも私に尽くしてくれていること、感謝しているわ。いつも、ありがとう」
「………………手を噛まれてからでは遅いですよ」
と、最後にそう『本気の忠告』をしてから、
ケイルスは、クロッカとセンに背中を向けて、ルーミッドのもとに、球をもっていこうとした。
が、途中で、
「……ん?」
魔法の障壁が張られていることに気づき、
ケイルスは眉間にしわをよせる。
すぐに、誰が、この壁を張ったのか理解できた。
とんでもなく強固な魔法障壁だったから。
「……ぃ犬ぅ……どういうつもりだ? 結局、ワナだったということか?」
と、センをにらみつけるケイルス。
センは、シレっと、
「なんのことか分からないが……おそらく、その魔法障壁は、試験終了5分前まで解除されないだろう。俺が張ったわけじゃないから、詳しくは知らんけど。……さらに、なんのことか分からないが……おそらく、その魔法障壁は、外に出る事こそできないが、外から障壁内に入ることは誰でも出来そうだ。まったく概要は知らんけど」
この期に及んで下手にシラを切る……という、あまりにも無意味な戯言をぶちかますセンに、ケイルスは、また、心底イラつかされる。
ケイルスは、ギリっと奥歯を強くかみしめながら、
血走った目でセンを睨みつけ、
「貴様は……人を不快にさせないと死ぬのか?! どうして、そこまで鬱陶しくなれる?!」
「悲しいけど、これ、病気なのよね」
と、とことん、ウザさを貫くセン。
そんなことをしている間に、
続々と、他の受験生たちが、この場に集まってきた。