161話 上にいるんだから、下からモノは言えねぇ。
161話 上にいるんだから、下からモノは言えねぇ。
なかなかのムーブでセンに圧力をかけていく。
そんなバリソンに、センは、熟練試験官的なフラットテンションで、
「いいぞ、いいぞ。けど、もっと行けるな。もう少し、自分の奥にあるものを掻きだしてみろ。そうすりゃ、合格させてやってもかまわなくってよ」
「頭おかしいイカれ魔人風情が、上からモノ言ってんじゃねぇえ!」
と叫んでいるバリソンの拳を、センは、片手でスルリといなして、
バリソンの体軸を豪快にズラすと、そのまま、胸に拳の甲を押し当てて、
「上にいるんだから、下からモノは言えねぇよ。そこまで器用じゃねぇ」
などと言いつつ、
ズガダンッ!!
っと、バリソンの身体を、地面へたたきつける。
背中から落とされたバリソンは、
「ぐほっ!!」
と、吐血する。
かなりの大ダメージ。
普通なら、このまま動けなくなる。
だが、『チャンスは今日しかない』と心底から思っているバリソンは、
「まだ、だぁああああああああああああああああああああああ!!」
痛みなど感じていない様子。
極限状態時に痛覚が遮断されることは珍しくない。
……重たい体をブンまわして、
どうにか、センから球を奪おうと必死。
その全身全霊を目の当りにしたセンは、
「うーん……まあ……ギリ合格かなぁ……二級試験では落とすけど、三級試験はギリ合格だ。ギリだけどな。決して、余裕の合格ではないから、その点、今後の人生で忘れないようにしましょう。まる」
そう言いながら、
指をパチンと鳴らす。
すると、バリソンの身体がビシっと停止する。
「う、ぐ……てめぇ……どういう……」
動けなくなったバリソンの目の前で、センは、
先ほど、地面にバラまいた8個の球の内の一つを掴み、
「バリソンくん。これが、お前の球だ。……証拠として、名前、書いておこうか」
などとナメたことを言いながらも、
センは、マジで、アイテムボックスから筆を取り出し、
その球に、小さな字で、サラサラと『ばりそんくんのたま』とかく。
「マジでギリギリだが……ガチで合格だ。バリソンくん。良かったな」
「……く、くれるのか……その球……本当に……」
「俺はうそつきの糞野郎だが……たまには、本当の事を……言う事も……なくはないけど、今回の発言は、とりあえず、嘘だ。残念だったな」
「あぁあああああああ??!」
「うそうそ。マジでやるよ」
「……ど、どっちだ……」
「さっき合格と言ったな。あれは嘘だ」
「……」
センのファントムトーク連打に、辟易した顔をするバリソン。
『センの相手をするのが心底イヤになってきている顔のバリソン』を見て、センは愉快そうに、
「ははは。そんな目で見つめるなよ、バリソンくん。興奮しちゃうじゃないか」
などと、アホなことを言っていると、
そこで、
――実質一組トップのケイルスが近づいてきて、
「どこを探しても見つからないと思ったら……とっくに、あんたが全部確保していたとは……流石に驚いた」
そう言いながら、全身を魔力とオーラで満たしながら、
「奪い取らせてもらう」
などと言ってきた。
そんなケイルスに、
センは、
「お前は普通に合格だ、ケイルス。現状の実力も、将来性も、普通に合格ラインを超えている」
そう言いながら、『バリソンの球』を『動けないバリソンのズボンのポケット』に突っ込むと、
その流れのまま、足元にバラまいている球を一つ手に取り、
さらさらと、ケイルスの名前を書いて、
「ほら、うけとれよ」
そう言いながら、スっと差し出す。
その動き全てに対し、ケイルスは、訝しげな目を向けて、
「……ワナとしか思えないな」
などと、至極当然の疑念を向けてくる彼女に対し、
センは冷めた声で、
「10秒以内に取りに来ないと、この球、砕くぞ。『お前の名前が書かれたこの球』以外は、絶対、お前にはやらない。誰にどの球をわたすか、既に俺の中では決まっている。この球が砕けたら、お前の合格の可能性は完全にゼロになる。それを理解した上で行動しろよ、ケイルスちゃん」