159話 わんっ。
159話 わんっ。
ちなみに、センは、四級試験の後半、クリア目前で、『全員を、四級試験合格させるのもどうかなぁ……試験官ごっこをかまして、何人か落とそうかなぁ』とも考えたのだが、途中でダルくなって、『ま、いっか。この辺の調節なんざ、本来は、ルーミッドが考えること。セラフとの、そこそこガチ戦闘で、まあまあ疲れているし……もういいや』と、考えることを放棄した。
★
「――お、あった、あった」
三級試験が開始して2分ほど経過したところで、
センは、この、そこそこ広大なダソルビア魔術学院全域に隠されていた、たった10個しかない小さな玉を……
――全て、発見してしまった。
10個の球を回収して持ってきた犬を見て、
飼い主であるクロッカは、
「……ものすごい速さで、全部を見つけてしまったわね。本当に、性格以外は、すべて優秀だわ」
「この球、ルーミッドの魔力が込められていましたからねぇ。探知系の魔法と、移動系の魔法を駆使すれば、そこまで難しくないですよ」
そう言いながら、クロッカに球を一つ渡しつつ、
笑いながら、
「隠された球を見つけ出して、ご主人様に献上。まさに、犬っすね。わんっ」
と、ヘラヘラ笑っているセンを尻目に、
クロッカは、受け取った球を見つめながら、
(なるほど……この球には確かに、ルーミッドの魔力が込められているわね。これだったら、魔術学院がいくら広いとは言っても、探すだけなら、そこまで難しくない……けれど、これだけの速度で、10個を探し出して、すべてを回収するのは……私が本気を出しても……正直、難しい……)
知れば知るほど、センエースの底が深くなっていく。
深淵を覗こうとしているが、覗かれてばかりのような……そんな気がしてくる。
そこで、クロッカは、センに、
「あなたがもっている、その9個の球……いったい、どうするつもり? 一個は、あなたの合格のために必要だとして、残りの8個は?」
「このまま、誰にもわたさず、一時間ほど防衛して、俺とクロッカ様以外、全員を落とす……ってのも選択候補の一つですけどねぇ」
などと言いつつ、センは、『自分用の玉』はアイテムボックスにしまい、
残りの8個を、足元へと雑にバラまく。
「……あなたの場合、それはやらないんじゃない?」
「おっと、分かった風なことを言いますねぇ」
「さすがに、これだけ時間を共にすれば、『最低限の性格』みたいなものは見えてくるわ。あなたは『言動が極端に狂っている重度の変態』だけれど……『歪んだ理不尽』を『極端に嫌う』という傾向にある」
「んー、30点ですね。全然、俺が見えていません」
「そう。辛辣ね。ちなみに、何点満点中の30点?」
「5点満点です」
「……いつのまに、私は、あなたのことを、6倍も理解してしまったのかしら。流石に、そこまでの自負はないのだけれど」
しんどそうに、そうつぶやくクロッカ。
色々と言いたいことはあったけれど、何を言っても、なしのつぶてであることぐらいは理解できているので、もう押し黙ることにした。
……と、そこで、
「おい、そこのクソ犬、ごらぁあ! てめぇ、なに、合格球を独占してやがんだ!!」
五級試験でセンと因縁がある『バリソンくん』が、
センの方に駆け寄りながら、そう叫んだ。
センの足元にある『8個の玉』……その内の一つだけでも獲得できれば、三級試験に合格できる。
合格が目の前にある……その高揚と、
『バリソンの合格を邪魔するであろうセンに対する怒り』がまじりあって、
かなり、テンションがブチあがっているバリソンくん。
「すべての試験を通して、ずっと、ふざけたことばっかりしくさりやがって、このイカれ駄犬がぁあ!」
そう叫ぶバリソンに、
センは、真っ青な顔で、
「き、貴様! クロッカ様に、なんて口の利き方を! あろうことか、クロッカ様を犬呼ばわりとは!!」