157話 あの犬は捨てた方がいい。
157話 あの犬は捨てた方がいい。
トゥルーヴァンパイアの暴走は、それはそれは、エゲついない大災害だった。
いくつかの町が壊滅し、死傷者の数は数十万単位に及ぶ。
……その話を、父から聞かされたことがあるクロッカは、
(もし……あの時、ダンジョンで召喚されたスケルトンが、『トゥルーヴァンパイアの擬態』であったなら……私の目を欺いたことも、あの時のセンが慌てて対応していたのも頷ける……)
チラっと、センを見ながら、心の中で、続けて、
(……流石に『トゥルーヴァンパイアの対処』ともなれば、この私でも骨が折れる……アンデッドは上位種になればなるほど、多くの『厄介な魔法』が使えるようになるもの。毒の反転とか、問答無用の即死とか……あとは、道連れの自爆とか……そういう、『純粋に私と相性の悪い魔法』とか、『対応しきれない初見殺し技』を多く持っている可能性が高いのが不死種……)
クロッカは思う。
もし、全ての予測が正しかったのなら、
『センは、自分を必死に守ってくれたのではないだろうか』と。
『諸事情があって、全ての実力を見せる訳にはいかないが、トゥルーヴァンパイアが相手だと本気を出さざるをえない……だから、クロッカたちを眠らせて、闘ったのではないか』と。
軽くロマンチック乙女ゲージがピョンと跳ねた。
が、それと同時に、
(センの実力……その底が……また見えなくなった。私ですら見通せないアンデッドを、センは正確に見抜いた……いや、正確に見抜いたかどうかは分からない……ただならぬ雰囲気を警戒しただけかもしれない……妙な気配というだけなら、私も、感じていなかったこともない……)
『存在値430の死羅腑の本気擬態』なので、存在値150ぽっちのクロッカでは、絶対に、気配の違いにすら気づくはずがない。
彼女の、この心の中の発言は、『心の中なのに、つい張ってしまった見栄』に過ぎない。
(同じ時間を過ごせば過ごすほど……センの底が見えなくなる……)
悩んでいると、そこで、ルーミッドが、
「クロッカ様、ちなみに、その擬態したリッチは、誰が討伐を?」
「……センよ」
クロッカは、センがアンデッドを討伐していた間、ずっと、『自分が寝ていたこと』は言わず、
『センが速攻で倒した』という創作を話す。
すると、ルーミッドは渋い顔で、
「あの犬ですか。……なるほど……あの犬の『酷い性格』からして、上位の不死種が湧いた場合、他の受験生を盾にして闘うであろうと想定していたので、今回の試験では放置しておりましたが……あなた様と同じように、釘を刺しておいた方が良かったですね……まったく、読めない犬だ……めんどうくさい。クロッカ様、ああいう訳の分からない犬を飼うのはおやめになった方がよろしいかと思いますよ」
「……ふふ……みんな、同じことを言うわね」
★
そんなこんなで、三級試験が始まる。
四級試験の合格者の数は、30~50人ぐらいだろうと予想していたルーミッドは、70人全員生存という結果に対し、当然『これはやりすぎだから、次で盛大に落とさないといけない』と考え、試験内容を、『事前に考えていたものとは別のもの』へと変更する。
もともとは、『違うダンジョン』をクリアさせるつもりでいた。
ダソルビア魔術学院には、全部で三つのダンジョンが存在する。
もともと、ルーミッドは、四級試験、三級試験、二級試験で、それぞれ、別のダンジョンをクリアさせようと考えていた……のだが、どのダンジョンも、構成的に、『ズバ抜けて高性能なアタッカー』がいると、比較的、簡単にクリアできてしまうので、このまま実施するわけにはいかないという判断を下す。
(あのセンエースとかいう名前のおかしな犬……あいつの思考がある程度読めるのであれば、このまま施行してもいいのだが……本当に、一切読めないからな……おそらく、釘を刺したところで、特に意味はなく、気分だけで好き放題するだろう。『四級試験で全員を合格にしてしまった』という問題が発生している現状だと……不確定要素にベッドすることはできない)