156話 スケルトン一体。
156話 スケルトン一体。
クロッカ以外の受験生全員が、利己を棄て、全員が決死の覚悟で総力戦を仕掛けて、作戦が見事にハマって、上振れして、運良く、うまいこと対処できたとしても……それでも、まあ、30~40人ぐらいは死ぬだろう。
最悪、クロッカ以外全滅……という可能性もありえなくはない。
――そう思っていた。
運よく『中級の中の雑魚』が召喚されていた場合でも、まあ、5~6人は死ぬだろう。
どんなにうまくいったとしても、一人か二人は死ぬ……そういう難易度。
ルーミッドとしては、そういう計算だった。
だが、クロッカから、
「なるほど、妙に疲れたと思ったら、ダンジョンに魔力を吸われていたのね……しかし、おかしいわね。あのワナによって召喚されたのは、『普通のスケルトン一体』だったわよ」
そんなことを言われてルーミッドは目を丸くする。
「す、スケルトン一体?! そんなバカな! 何日もかけて私の魔力を込めたのですから、最低でも中級以上が出てくるはずです! 『最下級』が出てくるなど、絶対にありえない!」
「けれど、実際にそうよ。他の人にも聞いてみたら? 私は嘘などついていない」
「……う……嘘をついているとは思いませんよ。あなた様が、俺ごときをごまかそうとはしないでしょう……となると……」
そこで、ルーミッドは、右手を顎にあてて考え出す。
数秒だけ、頭をひねってから、ゆっくりと口を開いた。
「スケルトン系は、『骨格』の部分に関しては、どの種も、『見た目』的に、それほど変わり映えはしませんし、上位種になると、簡単な『擬態』系の魔法を覚えている個体も少なくありません」
『ジェネラルスケルトンが、装備している剣や鎧をアイテムボックスに隠して、ただのスケルトンの振りをする』……みたいな事例は、稀によく聞く。
「……おそらく、今回召喚されたのは『リッチ』だったのでしょう。もしくは、『ソウルリッチ』……その辺の『魔法を得意とする上位アンデッド』なら、『そもそも見た目が似ている直結下位種のスケルトン』に化けることも、そう難しくはありませんから」
ルーミッドの、オタク特有早口熱弁を耳にしたことで、
クロッカは、
(……あの召喚ワナに『ルーミッドが、何日もかけて魔力を込めた』というのが事実であるなら……まあ、この熱量だから、間違いなく事実でしょうけど……事実であるなら、確かに、最下級のスケルトンが出てくるのはおかしい。ただ……もし、本当に、リッチやソウルリッチの擬態であったなら、流石に私のフォースアイで見破れる……これは、いったいどういうこと?)
あの時、クロッカは、センの様子がおかしかったので、
スケルトンに対して、かなり本気のフォースアイを使っていた。
フォースアイは、この世界においては、最高峰の鑑定魔法――基本的に、存在値100を超えている者しか使えない、極めて高度な魔法(鑑定系に特化した資質を持っていたり、特別な訓練を受けていたりした場合、存在値100以下の者でも使えることはままある)。
存在値150を超えるクロッカの本気のフォースアイなら、
たとえ、上級の『ソウルリッチ(存在値80前後)』の擬態であったとしても、
問題なく見破ることはできたはず。
もろもろの前提を踏まえた上で、
クロッカは、一つの結論を出す。
(もしかしたら……あの時のスケルトンは、『最上級の不死種』だったんじゃ……)
最上級のモンスターなど、クロッカでも見たことがないレベル。
ちなみに、彼女の兄であるパルカも、最上級は見たことがない。
彼女たちの『父と祖父』は、昔……彼女たちが産まれるよりも前に、一度だけ、最上級のモンスターである『トゥルーヴァンパイア』の対応をしたことがある。
2人がかりで挑んだので、なんとか問題なく倒せたが、トゥルーヴァンパイアの暴走は、それはそれは、エゲついない大災害だった。