155話 質量的にはトントン。
155話 質量的にはトントン。
「だからこれは、攻撃でもなく宣戦布告でもなく、俺を生んだお前達への、逆襲だ」
「私は、あなたを産んでいないわ」
「……マジレスされても困りますねぇ。逆襲ネタでしかないのに……」
そこで、クロッカは、深いため息をついてから、
「……ここらで、一度、本気で聞いておくわ。……なんで、あなたは、そんなに言動がおかしいの?」
「ブーメランって知ってます?」
「私も大概、おかしい女だって自覚があるけれど……流石に、あなたほどじゃないわね」
「どうでしょうねぇ……方向性が違うってだけで、実際のところ、質量的には、トントンぐらいじゃないっすか?」
などと言いながら、センは、受験生たちのあとを追って歩き出す。
★
その後は、特に問題なく、ダンジョンを進むことができた。
もちろん、途中で、山ほど、存在値20前後のモンスターがわいたものの、
このメンツなら、どうにか処理できる範囲だったので、
離脱者ゼロで、ルーミッドが待つ最深部までたどり着くことができた。
『それなりにリソースは削られているものの、誰一人欠けることなく、全員で漏れなくクリアした上、たいしたケガも負っていない70名』……を目の当りにしたルーミッドは、眉間にシワを寄せて、
「まさか、全員がクリアできるとは……それも、これほどアッサリ……大きな損耗もなく……」
そうつぶやきながら、
クロッカのもとに近づいていき、
ボソっと、
「クロッカ様。まさか、こいつらに手を貸したわけではないでしょうね。あなた様は、スペックが高すぎるので、へたに手出しをすると、試験が台無しになってしまうので、『試験に参加することを咎めはしませんが、試験中は監視役に徹してほしい』と、あれだけお願いしましたよね」
と、疑惑の目を向けてきたルーミッドに、
クロッカは、キっとした目で、
「私は何もしていないわ。言いがかりはやめてくれる? 私は、常に最後尾について、手出しすることなく、見守っていただけ。『背後からの、私めがけた奇襲』に対して、適切な対応はしたけれど、それは『約束の範疇』でしょう?」
クロッカから、これほどの圧力のある目を向けられると、
そこらの十七眷属なら、ションベンもらしながら土下座するところ……
だが、試験キチ○イなところがあるルーミッドは、
クロッカから、怒りの目をむけられても、なんのそので、
「この四級試験は、相当な難易度的にしてありました。『全員がほぼ無償でクリア』などできるわけがないのです。あなた様が手を出していない限り」
「相当な難易度? 実際に体験した身から言わせてもらうと、そうでもなかったと思うけれど? もちろん、私……クロッカ(超越者)としての視点の話ではなく、一般的な視点での話よ。存在値20前後のモンスターがわらわらと湧いて出てきてはいたけれど、このメンツなら対応しきれる数におさまっていたと思うわ」
「自動ポップするザコモンスターなどは、ちょっとした前菜やデザートにすぎません。メインは、召喚ワナです。三層の終盤で、召喚モンスターが出てきたでしょう? あの召喚ワナは、私の魔力を大量に込めておりますし、あなた様の魔力やオーラも、ダンジョンが奪って媒体にしているので、確実に中級以上のモンスターが湧いたはず」
今回のルーミッドの四級試験の内容は、『あの召喚ワナに全てが集約されている』と言っても過言ではない。
最低でも『中級(存在値50前後)』、
運が悪いと『上級(存在値80前後)』が召喚されるという、
四級試験としては破格の難易度となる、とんでもないワナ。
中級モンスターが出てくるだけでも、かなりの地獄だが、
仮に、『上級モンスター』が召喚された場合は、悲惨な事になったはず。




