154話 むにゃむにゃ。
154話 むにゃむにゃ。
「え、なに? なにが起きたの?」
「なんで、俺達……寝てるんだ? なんだ、これは……」
「ワナにでもかかった?」
「誰か、何が起きたか知らないか?」
「わからないが……確か……スケルトンが召喚されて……そしたら、クロッカ様の犬が、急にはしゃぎだして……」
「ああ、それは覚えているわ。それで、えっと……どうなったんだっけ?」
みな、戸惑いつつも、
センに眠らされる前の記憶をたどっていく。
そして、最終的に、
「クロッカ様の犬なら、何か知っているんじゃないか?」
という結論に達し、
みな、一斉に、センに視線を送る。
そのタイミングを見計らったかのように、
タヌキ寝入りをこいていたセンが、
「ふぁーあ……」
と、アクビ&ノビをしながら、ゆっくりと上半身を起こし、
「むにゃむにゃ」
と、口元をモニョモニョさせつつ、目をこすり、
「あれ? ここは誰? 俺はどこ?」
と、『記憶バグに陥っている旨』を全開で訴えかけていく。
そんなセンに、クロッカが、耳元で、
『周りには聞こえないぐらいの小さな声』で、
「……あなた、いったい、何をしたの?」
と、冷たい声で聞いてきた。
センは、頭を抱えて、クロッカの目を見つめながら、
「うほっ、いい美少女……あ、あなたは……いったい、どちら様? ……う……頭がっ……この痛み……俺に何かを思い出させる……なんだ……うぅ、頭が、割れそうに痛ぇ……」
などと、棒読みが止まらないセンを見下ろし、
クロッカは、
「答える気はないってことね……はぁ……」
と、タメ息をつきながら、頭を抱える。
まだまだ短い付き合いだが、それなりに濃厚な付き合いではあったので、
センの性格というか、その在り方・生き方みたいなものは、
少しだけ見えてきている。
ゆえにわかる。
仮に、ここから、ガッツリと問い詰めたとしても、
センは、絶対に、今のスタンスを崩さない。
どれだけ苛烈に問い詰めたとしても、
『ここは誰? わたしはどこ?』と、ナメ散らかしたことを言い続けるだろう。
それが分かっているし、
センが、このおふざけモードになっているということは、
現状、面倒事的なことは何もないのだろうとも思ったので、
クロッカは、仕方なく、
周囲にいる70名近い受験生たちに、
「どうやら、さっき召喚されたスケルトンは、ただのスケルトンではなく、催眠や記憶障害を引き起こす何かを発していたみたいね。オーラなのか、それとも、ガスなのか……その辺は分からないけれど、たぶん、そういうことだと思うわ。すでに、スケルトンは、消えていることだし……もう大丈夫だとは思うけれど、ここから先、また出てくる可能性は否めないし、他にも、たくさんのワナがあるはずよ。気をつけて進むべきね」
と、そんな『場を処理するような宣言』をして、
『召喚されたスケルトン関連の問題』を、強引に終わらせていく。
70名の受験生たちは、
いぶかしげな顔や、センを怪しむ表情などをしていたりもしたが、
クロッカの、
「はいはい! いつまでも、ここでダラダラしていてもしょうがないでしょう。これでこの話は終わり。さあ、次の層に進むわよ。何をしているの。私の命令が聞こえないのかしら?」
という強引な声掛けで、
先頭のケイルスが、パブロフの犬のごとく、
「はっ! かしこまりました! クロッカ様!」
と、鬼の従順さを見せて、
全員を引っ張っていった。
綺麗に整列して進んでいく受験生たちの背中を見送りつつ、
クロッカが、隣にいるセンに、
「さあ、行くわよ、セン」
と、声をかけるが、センは、頭を抱えて、
「俺は誰だ? ……誰が生めと頼んだ? 誰が作ってくれと願った? 俺は俺を生んだ全てを恨む。だからこれは、攻撃でもなく宣戦布告でもなく、俺を生んだお前達への、逆襲だ」