151話 死念。
151話 死念。
長年にわたり、『十七眷属や龍神族……その他大勢の心ない人間たちによって虐げられてきた魔人たち』の憎しみ、怒り、殺気、恨み、つらみ……
その全てが、センエースのエネルギーを媒体にして結集した姿。
それが、この死羅腑。
人間たちによってオモチャにされ、苦しめられた魔人たちは、
みな、『呪ってやる』と呪詛をはきながら生き、そして、無残に死んでいった。
そんな、この世界の陰部に山ほど刻み込まれている『呪い』の集合体。
それが、目の前にいる死羅腑である……と理解したセンは、
「長年にわたって蓄積された死念の集合体か……どうりでハイスペックなわけだ。お前らの憎悪……『尖ったインドカレー』を置き去りにするレベルでスパイシーだぜ」
ファントムトークで、世界をケムにまいているものの、
しかし、その悲痛な表情に、シャレの要素は一切なかった。
センは、とにかく胸糞が嫌いだ。
心がしんどくなるだけの悲劇が大嫌い。
……すでに、センは、この世界のヤバさを理解している。
性根の腐った人間どもの、魔人に対する悪逆非道ぶりは把握できている。
だからこそ、クロッカの犬として動き出したわけだが、
しかし、こうして、脳の深部に、ダイレクトに、
『これまで虐げられてきた魔人たちの無念』が突き刺さると、
流石に、また、想いの質量が変わってくる。
センは考える。
これからどうするべきか。
そして、この死羅腑をどうするべきか。
「……めんどくせぇなぁ……」
ぽりぽりと頭をかくセン。
すぐに、いくつかプランが浮かんだ。
その全部が面倒くさいものだった。
「……まったく……ほんと……うぜぇなぁ……うぜぇよ……」
ぶつぶつと、自分が出したプランに対して文句を言いつつも、
『自分なりの最善の結論』を求めて、念入りに精査していくセン。
――しばらく考えてから、
センは、死羅腑に、
「……俺はお前を救ってやることはできない」
この世界に転生して以降、間違いなく一番優しい声音で、
「だが、『その想い』と『向き合ってやること』なら出来なくもないだろう。俺がクロッカを使ってやろうとしていることは、お前の無念に寄り添えるものだと……思わなくもない」
こういう時、彼は、ファントムトークを使わない。
曖昧に濁すことはあっても、『ただはぐらかす』ようなマネはしない。
こういう場面でチョケられるほど、まだ、精神的に成熟していない。
将来的には、こんな、心が締め付けられるような場面でも、問答無用で、ファントムトークを使えるようになるかもしれないが……今の、未熟なセンでは、まだ無理。
「死羅腑……こい。お前の全部を、俺にぶつけてみろ。受けとめてやるよ」
そう声をかけると、
死羅腑は顔あげて、センの目を見た。
センの神々しさすら感じる雰囲気を前に、
「……」
死羅腑は、まるで、神託を受けたように立ち上がる。
体の震えは止まっていた。
自分自身の感情を言語化するなど、今の死羅腑だけではなく、誰にだって出来ないこと。
けれど、この時の死羅腑は思う。
今の自分が一番、フワフワしている……と。
意味は分からない。
誰にも分からない。
分からなくていい。
そんなことを思いながら、
死羅腑は、センの胸に飛び込んだ。
そして、
「がぁああああああああああああああああああああああ!!」
これまでの全ての憎悪。
苦痛、苦悩、悔しさも、辛さも全部、全部、全部をこめて、
センエースに、ただの拳をぶつける。
死霊のオーラだとか、何かしらのデバフ魔法だとか、
そんなお遊びに興じる気にはなれなかった。
ただただ、握りしめた拳を、センの胸にたたきつける。
何度も、何度も、何度も……
センは、黙って、その『もがき』を受け止めた。
死羅腑は、魔力系統のモンスターとはいえ、神級なので、普通に、腕力のステータスも高い。
死羅腑の全力連打は、普通に、センの胸骨や肋骨をバキバキに砕いた。
言うまでもなく、もちろん、めちゃくちゃ痛いのだが、
しかし、センは、表情一つ変えずに、
死羅腑の拳を受け止める。