150話 弱者のふり。
150話 弱者のふり。
「こわい……くるしい」
センにボコられ、ボロボロになった死羅腑は、
震えながら、弱音をはく。
……こざかしいモンスターの中には、
本物の感情があるふりをして、人間の困惑を狙うものもいる。
喋れるモンスターは珍しくないし、命乞いのふりをするモンスターもいないわけじゃない。
だから、最初はセンも、死羅腑の言動を『姑息なワナ』だと認識していた。
しかし……
「痛い……苦しい……」
苦々しい口調で、ひたすらに弱さを口にする死羅腑を見て、
「庇護欲をそそる弱者の演技まで得意とは……すべてにおいてハイスペックじゃねぇか。やるねぇ」
などと、口では言いつつも、心の中で、
(なんだか、マジの弱音っぽいな……『神級の知性』だと、『人間の弱さ』すら『完璧にトレースできる』ってことなのかね……いや、流石に、そういうレベルじゃねぇ気がするが……どう見てもガチで怯えているようにしか見えねぇ……)
そう思っていると、
死羅腑は、ガクっと膝をついて、
「もういや……誰か……助けて……なんで……こんな……ずっと……ずっと……」
と、頭を抱え、震えながら、救いを求め始める。
その様を見たセンは、
決して警戒心だけは解かないまま、
いつでも対応できるよう準備した上で、
「……弱者のふりが、マジでうめぇじゃねぇか。アカデミー賞が束になってかかってきても太刀打ちできないレベルだぜ」
と、ちょっと何言っているか分からない戯言を前においてから、
「神級とのお喋りとか、そうそうできることじゃねぇし……せっかくだから、少しだけ、聞いてやるよ。言いたいことを好きに喋れや」
そう言いながらも、センは、全方位にアンテナを張る。
死羅腑の言動が、高度なワナである可能性を絶対に棄てないセン。
そんなセンに、死羅腑は、うなだれたまま、
「ずっと苦しかった……『私たち』は……ずっと……ずっと……」
と、そんなことを言う死羅腑に、
センは、かるく、額に汗を浮かべて、
「私『たち』……ねぇ……お前みたいなのが、複数いたらやばいんだけどねぇ。さすがの無敵な俺でも、お前二体以上はキツいぜ」
「私たちは……どうして……生まれてきたの……苦しむため? 死ぬため……なんで……どうして……」
「そんな、アンパ○マンのテーマみたいなこと言われても困るが……」
「私は……私たちは……ぁあ……ぁああ……」
死羅腑は、涙を流せない。
スケルトンに擬態していなくとも、もともと、『骨がローブを羽織っているというタイプのモンスター』だから、泣きたくても泣けない。
しかし、センの目には、この死羅腑が泣いているようにしか見えなかった。
涙は出ていないけれど、泣いているとハッキリわかった。
「演技だったら、大したもんだぜ。見えない涙が見えてくるレベル……仮に、演技だったら、超絶技巧の極致と言えよう」
そう言いながら、
センは、警戒心を解く事こそないが、
しかし、戦闘態勢は解除して、死羅腑のもとに近づき、
「何がそんなに苦しい?」
と、少しだけ優しく、そう声をかけた。
すると、
死羅腑の全身から、
淡い粒みたいなのが漏れた。
その粒は、センの中へと、ゆっくりと注がれていく。
――ソレは、思念。
死念と言ってもいい。
死羅腑の死念に触れたことで、センは、
「ああ……そうなのか……お前は……『お前ら』は……」
『目の前にいる死羅腑を構成している要素』を理解した。
この死羅腑は、『センのエネルギーを吸収しただけの個体』じゃなかった。
流石に、それだけだと、これほどのモンスターにはならなかった。
センエースのオーラ&魔力という膨大なエネルギーが、『死羅腑生成のキッカケ』になったことは間違いないが、『核』になっているのは別の概念。
……ソレは、この世界に溢れている憎悪。