149話 丁寧に追い込む。
149話 丁寧に追い込む。
「毒も麻痺も、俺には効果がない。なぜかって? 家庭の事情でね」
もちろん、嘘である。
ただのテンプレハッタリ。
しかし、ガチンコの鍛練を積んできたので、『かなり効きにくい』というのは事実。
そもそも、存在値的に格上の相手に即死を通すのは難しい。
センは、丁寧に、『死羅腑の即死魔法』に対し、『デバフを散らす魔法』を合わせることで、相殺していっている。
対応を間違えば、センでも普通に即死してしまう。
それは事実だが、しかし、センは間違えない。
驚異的な集中力で、『死羅腑の全て』と真摯に向き合っているセンにスキはない。
言動こそ、今も、かなりバグっているセンだが、しかし、強い相手と戦っている時にリスペクトを忘れたりはしない。
言動はずっとオチャラケているが、決して、死羅腑をナメることなく、
真摯に、徹底的に、容赦なく、大人げなく、
とことん、丁寧に追い込んでいく。
★
センと死羅腑の死闘は、かなり苛烈なものとなった。
センの方が強いので、終始、セン優性……それは間違いないが、神級のモンスターは、やはり生命力が高く、そう簡単には殺せない。
それに、この死羅腑は、とにかく、『多くの種類の魔法がつかえる優良個体』だった。
もともと、不死種の上位種は、魔法を多く扱えるものだが、この死羅腑は、その中でも、群を抜いて、大量の魔法を使える、かなり稀有で優秀なタイプ。
そこらのザコ冒険者とかだと、この死羅腑の『華麗な魔法さばき』に翻弄され、なすすべなくぐちゃぐちゃにされるだろう。
ザコだけではなく、十七眷属も、龍神族も、
もれなく、全員、簡単に弄ばれて全滅すること必至。
――『もしセンがいなかったら、ほんの数時間で、この世界を完全に終わらせることも出来る』という、とんでもない実力者である死羅腑だが、
しかし、センは、そんな、『死羅腑の全て』に対して完璧なアンサーを示し続ける。
「いいぞ、死羅腑! 素晴らしいスペックだ! てめぇは、間違いなく、俺がこれまでの人生で見てきたモンスターの中で最強!! モンスターに限定しなくとも、俺が出会ってきた全ての中で最強!! 敬意を表するぜ! 俺は強くなりすぎたから、もしかしたら、もう二度と、ガチ戦闘はできないかも……とか、ちょっとうぬぼれていたりもしたんだが……そんなことはなかったぜ!! ははぁ!!」
楽しそうに笑いながら、
センは、死羅腑に猛攻をしかけていく。
華麗に死羅腑の全てを回避し、
適切に、死羅腑の魔力とオーラを削っていく。
「どうした、どうした! 少し、動きが鈍くなってきたぜ! やれやれ、どうやら、さすがの死羅腑さんも、『俺との死闘』という過酷さにとうとう音をあげたらしい! ふははは!」
久々のマジ戦闘でテンションがおかしくなっているセン。
アドレナリン全開で、どんどん、容赦なく、死羅腑を追い詰めていく。
この死羅腑は、とんでもなく優秀な個体なので、
『下手をすれば、センでも殺される』という可能性は確かにある。
それは嘘ではなく、ただの現実。
しかし、ヘタさえこかなければ……この通り、余裕でボコボコにできる。
センエースは、存在値の数値が高いだけではなく、戦闘力の方も本物。
積み重ねてきたものが違う。
そんじょそこらのチーターとは土台が違うのだ。
「ははは! おらぁ!! どうした、どうした!」
楽しそうに、死羅腑をボコボコにしていくセン。
――結果、次第に死羅腑が絶望し始める。
不死種の上位種は知性も優れている。
頭がいいから、絶望の解像度が高い。
――だが、所詮モンスターだから、本物の恐怖を感じたりはしない。
上位のモンスターは『知性に似たシステム』を有しているが、それは、あくまでも、『知性に似せたAI』・『プログラミングされたパターン』にすぎず、
決して本物の知性や感情ではない。
……と、センは、そう思っていた……が、
「こわい……くるしい」