145話 自動召喚。
145話 自動召喚。
――現状だと、センは、特に暴れるつもりはない。
この試験中は普通に後方支援に徹している。
そんな『職務をまっとうしている時のセン』の頼もしさは半端ない。
背後や側面からの『不意の襲撃』などを、センが常に完璧に対応しているので、『全体としての損耗』を、かなり少なく抑え込むことができていた。
3層の中間まできた現在だと、この場にいる全員が、センのことを『なかなか役にたつ盾だ』と認識するようになっている。
序盤こそ、なんだかんだ、ケイルスともバリソンとも、ギスギスしていたセンだが、
ここまでくれば、もはや、全員が、ある程度、一丸になっていて、なかなかの一体感がうまれてきている。
そんなこんなで、三層をクリアして、
四層へと続く階段を前にした時、
ウィーン、ウィーン、
と、謎の警戒音が空間に響き渡った。
受験生チーム全員が戦闘態勢をとりつつ、何事かと周囲をにらみつける。
『エネルギー吸収完了』
『自動召喚開始』
そんな音声が響き渡る。
『この状況の詳細』をいち早く理解したのは、
当然、『根本の出来』がケタ違いなセンエース。
センは、周囲を観察しつつ、心の中で、
(……これは……『ダンジョン内に入ってきた者のオーラや魔力を吸収して召喚のリソースにするタイプのワナ』か。そんなに珍しいワナでもないが……ダンジョン全体のスペックのわりに、妙に精度が高いな。ふむ……おそらくだが、『このダンジョンにもともと設置されているワナ』を、ルーミッドがカスタムした感じかな。……ダンジョンに入った瞬間から『吸われている感』はあったが、コレが原因だったか……)
状況を冷静に分析していく。
ちなみに、ダンジョンに入った時から感じていた『吸われている感』に関しては、面白そうだと思って放置していただけで、決して、対応できなかったわけではない。
(多分、コレ系のワナだろうと思ったから、吸収を妨害するんじゃなく、むしろ、積極的に垂れ流してやったから、この罠、結構、魔力と体力を吸ってんだよなぁ……)
『試験があまりにもタルすぎるから試験官ごっこをやろうと思った云々~』という狂気的なセリフは、ただのテンプレではなく、ガチの感想文だったりする。
だから、この罠で何か面白い事でも起こらないかなぁ、と軽くワクワクしているセン。
(俺の体力と魔力……あとクロッカの魔力もけっこう吸っているから、けっこう、えぐいのが出てくるんじゃねぇかな……『上級(存在値80前後)』か、下手したら『最上級(存在値120前後)』が出てきてもおかしくない……)
この世界において、出現するモンスターの階級は『最下級(存在値20前後)』以下が大半。
まれに『下級(存在値35前後)』や『中級(存在値50前後)』が湧いて大騒ぎ……
ごくごくまれに、上級が出てくることもなくはないが、それは、本当に、滅多にないこと。
最上級のモンスターともなると、この世界でわくことなど基本的には絶対にないし、もしわいてしまったら、クロッカですら対応するのが難しいランク。
――それが、この世界におけるモンスターのポップに関する常識であり前提。
その辺の常識に関しては、召喚ワナに関しても同じことが言える。
だから、いくら、センやクロッカの魔力を吸ったからといって、
そんなに、ほいほい、上級や最上級が出るわけがない。
それは、センも分かっている。
この世界で、上級や最上級を出すというのは、
『めちゃくちゃ渋い闇鍋ガチャで人権を引く』……みたいなもの。
だから、先ほどの『最上級が出てもおかしくない』といった発言は、
『5万ぐらいつぎ込んだんだから、人権キャラ完凸してもおかしくないよね』
みたいな、かなり見通しが甘めな希望的観測に過ぎない。
過ぎなかった……のだが……
「……え?」
目の前に召喚された怪物を見て、
センは目を丸くした。