144話 ダンジョンの奥へ。
144話 ダンジョンの奥へ。
五級試験までは鼻歌混じりだった『ダソルビア魔術学院一組の上位連中』も、この試験では、それなりに苦労している様子だった。
一組の面々は、存在値40前後あるので、存在値20前後のモンスター相手に『準備万端のタイマン勝負』で負けることはほぼほぼないが、こう、ぞろぞろと出てこられると、さすがに『体力温存した上で楽勝』とはいかない。
体力、魔力ともに、じわじわとリソースを削られていく。
数の暴力は、やはり強い。
ちなみに、この試験において、クロッカは、最後方から様子見。
事前に、ルーミッドから、
『クロッカ様には、自衛以外では手を出さないようにお願いしている。クロッカ様の力に頼ってクリアしようなどと甘えたことを考えるなよ』
と言われているので、クロッカが『高みの見物』をしていることに関して、
特に、何かを思う者はいない。
そもそも、全員の中に、『クロッカが試験に参加している』という認識はない。
これは、初期の段階でルーミッドも言っていたことだが、
みな、クロッカのことは、『仕込みの審査員』程度にしか受け止めていない。
または、
『頭おかしいイカレお嬢様が、またなんか奇抜なことをしている。かかわらないでおこう』――ぐらいにしか思っていない。
★
101人の受験生全員で、『大量にわくモンスター』をどうにかこうにか処理しつつ、
ダンジョンの奥へ、奥へ、と進んでいく。
このダンジョンは『全5層』構造の地下迷宮になっており、
現在、受験生たちは3層まで降りてきている。
このダンジョンが全部で五層であることを事前知識として知っている『1組実質1位のケイルス』が、
「あと2層だ! 気を引き締めていくぞ!」
と、リーダーシップを発揮しつつ、前線で受験生たちを引っ張っている。
最初の方こそ、受験生たちは、各々、敵対はしないまでも、各自で好き勝手に『デバフ撒きや攻撃など、自分に出来ること』を自由に行っていた感じだったが、
二層の途中ぐらいから、だんだん、『ケイルスを筆頭とした1組上位連中』を中心にまとまってきて、
今では、自然と、『ケイルスをリーダーとした、全員一致団結ガチガチレイドパーティ』となっていた。
最前線前衛を、ケイルスと、『1組実質次席のコータス』が担当し、
その半歩後ろを1組の前衛職や、ジバや、バリソンや、ハロや在野の有能な方々ががっちりと固めている。
その後ろから、ラスやビシャなどの、高性能な『遠距離攻撃手段』・『回復バフ・デバフ手段』を持つ後衛が支援をしている。
センとクロッカは、最後尾で、背後からの不意打ちに備えている感じ。
自衛しか許されていないクロッカだが、この手法なら、チーム全体の役に立つ。
別に、受験生たちは、クロッカを利用する気はないのだが、
なんとなく、流れの中で、クロッカも『チーム後衛の奇襲防御担当』として機能している感じ。
センに関しては、
受験生たちの大半から、
『こいつを後ろに据えるのは怖いな』
などと思われてはいるものの、
しかし、『クロッカの完全監視下にある状態なら、ペットとして大人しくしているだろう』という認識になっているため、そこまで警戒などはされていない。
3組の面々は言うまでもなく、センを警戒することなどなく、むしろ絶対の信頼をおいている。
彼・彼女らは、センに対し『試験だから助けてはくれないだろうけど、本当にやばい時は守ってくれるはずだ』という強い信頼感を抱いているのだ。
センと『それなりに濃い時間を共に過ごしたもの』は、よほどのアホでない限り、『センエースの異常とも言っていい高潔さ』を必ず理解する。
その信頼感は、地下迷宮を進むにつれて、3組以外の者にも伝播していく。
『性格と言動のヤバさ』という点に目をつむれば、センエースほど頼りになる男はいない。