143話 おかしなことするなよ。
143話 おかしなことするなよ。
「もう帰る者はいないようだな。ここから先、死んでも完全に自己責任だ。自分の判断以外を恨むのはお門違いだぞ」
と、大事な前提を口にした上で、
「今回の試験においては、『上位何名が合格』と言った具合で『合格者を絞るようなこと』はない。ダンジョンをクリアした者全員が四級試験合格者となる。よって、今回に限り、足を引っ張り合うのではなく、全員で協力して進むことを推奨させてもらう。強制はしないが、しかし、試験官の意図は汲み取るべきだと思うぞ。等級試験において、こちらが確認したい資質は、決して、『足の引っ張り方』だけではない。『他者を蹴落としてでも上に這い上がる胆力』……それも、もちろん大事だが、それだけでは、『上に立つ者』としての資質にかけるし、そもそも社会が成りたたない。四級以上の資格を持つ者は、『いかに他者と上手く連携し、困難に対応できるか』……この点においても有能であることが望ましい」
試験における大事な前提を前においてから、
ルーミッドは、
「それでは、試験を開始する」
四級試験の開始を宣言した。
★
――受験生たちは、それぞれ、いくつか思惑を胸に抱きつつも、
とりあえず、
『この試験では、全員で協力して進もう』
『この試験中に、他者を蹴落とそうとする者は、全員の敵と認定しよう』
という結論に至った。
ちなみに、この結論……『前の試験で400人を蹴落とした異常者セン』に対する『足を引っ張るなよ』という牽制が込められているのは言うまでもない。
なんだったら、何名かは、センを睨みながら、
『邪魔をするなよ、そこのクソ魔人』
と、直接、釘を刺していたりもした。
その中の筆頭がバリソンくんなのも、言うまでもない。
バリソンは、試験内容を聞く直前まで、『四級試験中に、センに復讐をしたい』と思っていたぐらい。
だが、流石に、試験内容が試験内容なので、
この試験中に襲うということはやめておこうと考えている。
むしろ、逆に『この魔人は頭がおかしいから、こんな協力プレイ前提の試験でも普通に襲ってくるかもしれない』と不安に思っている。
だから、バリソンは、
『絶対に、おかしなことをするなよ』
と、センに、再三、注意をしかけた。
あまりにしつこいので、センは、バリソンに対し、半ニヤケで、
「そんなにしつこいと、俺の耳には『押すなよ、押すなよ』って聞こえるぜ。気を付けた方がいい」
などと、そんな事を言われて、バリソンは眉間にシワをよせる。
センが何を言っているのか具体的には分からなかったが、『煽られている』ということは理解できたので、
「この試験が終わったあとは覚えておけよ。三級試験では、必ず、相応のお礼をさせてもらうからな」
「えー、そんな怖いことを言われちゃったら、恐怖のあまり、この試験中に背中から襲っちゃうかもしれないなぁ」
「やめろ! 絶対に!」
とにかく全ての言動がヤバすぎるセンにドン引きしつつも、
受験生たち一行は、試験会場であるダンジョンの中へと入っていった。
★
ダンジョンの中は、大量のモンスターがひしめいていた。
鬼種や不死種や悪魔種など、バラエティ豊かなモンスターたちが、『数十匹単位で襲いかかってくる』という、だいぶやばい状況。
存在値的には、だいたい20前後で、
センやクロッカやビシャなどからすればカスみたいなものだが、
一般受験生たちからすれば、普通にしんどい相手。
もちろん、『この四級試験まで残っている者』は、だいたい、みんな、存在値30以上なので、
存在値20前後のモンスター一体一体を倒すことは問題なくできるのだが、
とにかく出てくる数が多いうえ、モンスター連中が、前中後衛に分かれて、しっかりと連携して襲ってくるため、
受験生側も、ガチガチに連携していないと、思わぬ大ダメージを受けてしまう。