140話 そう簡単に特級を取れると思うなよ。
140話 そう簡単に特級を取れると思うなよ。
センは、もともと、『襲撃者の正体』を隠すつもりでいた。
もしくは、カドヒトに罪をなすりつける気でいた……のだが、
しかし、今後のことを色々と考えた結果、
『ま、いっか』ということで、直球の正体を晒したセン。
はたから見たら、『ハイスペックの頭やべぇやつ』という、
モロに、どこぞの奇術師みたいなキャラになっているセン。
そんなセンに、ルーミッドが、
「……なるほど……流石は、クロッカ様の犬……といったところか」
眉間にシワをよせて、小さくそうつぶやいていると、
その横にいるクロッカが、センに、
「また、ずいぶんと無茶をしたわね。……まあ、もう、あなたの暴走には慣れてきたけれど」
「さっさと特級を取ってしまいたいので、数を減らさせてもらいました。今後、どんな試験があるか知りませんけど、審査する対象が少なければ少ないほど、時間短縮になる可能性が上がるでしょ? 俺、はやく帰りたいんですよね。こういう、かったるい行事、嫌いなんですよ」
などとヘラヘラ言っているセンを尻目に、
ルーミッドが、
「ずいぶんとナメられているようだな。お前が、それなりの実力者だというのは認めてやってもいいが、そう簡単に特級を取れると思うなよ」
「ナメてなんかいませんよ。事実を言っているだけです。俺クラスの実力があれば、特級をとるのは余裕。時間の問題でしかない。それだけの話です」
「……」
ルーミッドにとって、この試験は、個人的趣味の要素が強い。
趣味だからこそ、まじめに、公平に、真摯に取り組んでいるが、
趣味だからこそ、『無駄に熱くなってしまうこと』というのもある。
ルーミッドは、他の十七眷属とくらべ、比較的、まだ人格的にまともな方ではあるが、『自分の好きなこと』『大事な趣味』を、小バカにされてしまうと、流石に、普通に、イラっときてしまう。
『イラっときてしまった権力者』というものは、
タガが外れて、暴走してしまうもの。
ルーミッドは、心の中で、
(……不愉快な魔人だ。……お前は、多少、『先天的な資質に恵まれてはいるよう』だが、人格に大きな問題がある。特級にふさわしくない。……一級までは許してやるが、絶対に特級だけはとらせない。これは差別ではない。ただの選定判別だ)
特級の試験で、センエースを絶対に落とすことを決めた。
試験内容は全て、ルーミッドが決めることが出来る。
だから、センエースにとって不利になる試験内容にすることも容易。
(幸いなことに、今回の試験には、『キチ〇イお嬢』も参加している。このキチ○イをうまく使えば、あの魔人にどれだけの才能・資質があろうと、関係なく、不合格にすることは可能。最悪、他の手段で落とせなかったとしても、『クロッカ様に勝てなければ不合格』という試験にすれば、確実に落とすことができる)
ニっと黒く笑うルーミッド。
そんな彼の腹の中が、クロッカには、透けて見えるようだった。
ルーミッドの性格や、センの言動等を考えれば、
ルーミッドが、どこかで、今のような思想に到ることは、予想がついていた。
(想定通り、ルーミッドはイラついているわね。おそらく、どこかで、私をセンにぶつけようとするはず。それでいい。今回の等級試験では、センに特級を取らせることも目的だけれど、それ以上に、『センの底をはかること』が最大の目的なのだから)
クロッカは、色々な思惑を胸に、センエースを、この等級試験に参加させた。
まずは、特級を取らせて、センエースの社会的地位を確固たるものにすること。
一級を取ろうが特級を取ろうが、魔人に対する差別がなくなることはない……が、しかし、『特級をもっている者』は『相応の実力者である』ということが、社会的に確定するため、『いくつかの無茶』を通しやすくなる。
クロッカの革命は、むちゃくちゃをやっているように見えて、実は、段階や手段を重んじている。