139話 クロッカの革命。
139話 クロッカの革命。
(……センエース……クロッカ様が飼っている魔人……確か……魔法学校で教師をしているとか……)
最近、各地で、たまに聞く名前。
クロッカがおかしなことをするのは日常茶飯事だが、
魔人のペット『センエース』に関することは、
無茶な内容が多いので、面白話のウワサとして広まることも多い。
アタオカなエピソードばかりなので、どこまで本当か眉唾ものと思っていたが、
今回の件を経たことで、リーブルは『噂は全部本当かもしれない』と思い始めた。
(……この世界……もしかしたら、やばいのかもしれない……)
と、次第に冷静になってきた頭が、
この先の未来に不安を抱き始める。
『クロッカは革命を起こそうとしている』という噂は、たまに聞く。
(クロッカ様が、どれだけ本気か知らないけれど、もし、クロッカ様が『本気』で『革命をおこすつもり』で……かつ、『あのセンエースという魔人を暴れさせるつもり』でいるのだとしたら……)
大変なことになるだろうと思った。
革命が成功する確率は流石に低いと思われるが、
世界に相当な禍根が残ることになるのは間違いない。
その被害規模は、上級国民の中だけにとどまらず、
おそらく、庶民の方にも降りかかってくるだろう。
将来的に、世界は大混乱に陥るかもしれない。
などと思う一方で、
(いや、それとも、逆で……世界は、良い方に変わろうとしているのかも……)
手の中の魔カードを見つめながら、心の中で、そうつぶやく。
倒れている連中にも、もう一度目線を送ってみた。
実際のところ、誰もケガなどはしていない。
ボコボコにされたが、結果的には『五級試験で落ちるべく人が落ちただけ』であり、
そして、自分は、『余裕で母の治療ができる神代のアイテム』を手に入れた。
(あのセンエースという魔人……なんで、これほどのアイテムをもっているんだろう……そして、なぜ、これほどのアイテムを、僕にポンとわたせるんだ……)
色々と考えることは多く、
悩んだものの、
しかし、今は、
(さ、さっきの魔人のことを考えるのはあとだ……は、はやくかえって……母さんに、これを……)
『まずは何よりそれが最優先だ』と心が叫んでいた。
とにかく、母の病気を治して、
それから、色々と考えよう。
そう思いながら、リーブルは、その場をあとにした。
★
山頂に最後に到着したのは、もちろん、センエース。
センが、『100位のバリソン』に続く『101位』でゴールして以降、誰も山頂に辿り着くことはなかった。
そのことを不審に思ったルーミッドが、センに、
「そこの魔人。お前の後ろを走っていた400人ちょっとはどうした?」
その問いに対し、
センは、バリソンをチラ見しながら、
数秒だけ、頭を動かしてから、
「ああ、全員、叩き潰しておきました。念入りに叩き潰したので、あと数時間……下手したら数十時間ぐらいは寝ていると思いますよ。なので、もう五級試験は、終わりにして、次の試験に進んじゃいましょう」
「……全員……叩き潰しただと?」
「ええ、そうですけど、なにか? あれ? 受験生同士で足を引っ張り合うのはありなんですよね?」
「……まあ、そうだが……お前ひとりで、400人全員を倒したというのか? 六級試験を合格した400人を?」
「魔法でハメ潰してやりましたよ。俺、初見殺しのコンボをいくつか使えるんで。空間系と幻影系なんですけどね。……ね、バリソンくん、君は体験したから、よくわかるよね?」
そう言いながら、バリソンに視線を向けると、
バリソンは、センを睨みつけながら、
「……あの仮面野郎は、お前だったのか。……ふざけた真似をしやがって……覚えておけよ、このクソ魔人が。どこかで、必ず、思い知らせてやるからな」