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137話 選択肢。


 137話 選択肢。


「いい根性だ。普通の8歳児なら、とっくの昔に泣きわめいていることだろう。とても『小学二年生ラインの年齢』とは思えない、その胆力に敬意を表し、お前に選択肢をくれてやる」


「……せんたくし……」


「お前か母親か……どちらかを殺す」


「……」


 ここまで、何度か絶望的な表情を浮かべてきたリーブルだが、

 今、この瞬間こそが、間違いなく、その最高潮。


 真っ青な顔のリーブルに、

 センは続けて、


「選ぶ権利だけはくれてやる。さあ、どっちにする? 母親のために死ぬか? それとも、自分のために母親を殺すか?」


「……」


「簡単に答えはだせないか? でも、あまり長いことは待ってやらないぞ。そうだな……20秒にしよう。カウントダウン開始。この20秒が、お前の人生最後の20秒になるか、それとも――」


 と、そこで、リーブルが、


「ゆるしてください……もう、試験はいいので……どうか……見逃してください……僕のことを……見なかったことにしてください……お願いします……どうか……どうか――」


 そう言って、必死に頭を下げる。

 その潔いザマを見たセンは、

 割と本気で感心した顔で、


「本当に、なかなかの胆力だ。まあ、だからこそ、途中で止めたりしねぇけどな。残り7秒。ちゃんと答えを出せよ。この場合における沈黙は悪手じゃぞ、ありんこ」


 問答無用の空気でリーブルを睨む。

 その雰囲気全般から、『何を言っても無駄だ』と悟ったリーブルは、

 頭の中で、必死になって、道筋を探した。

 生き延びる方法。

 母を殺させない方法。

 必死に考えるのだけれど、

 こんな数秒やそこらで答えなんか出るわけがない。


「う、うぅ……うぅうう……うわぉああああああっ!」


 ここまで、『とてもガキとは思えない胆力』で、

 どうにか、センと向き合ってきたリーブル。


 しかし、さすがに、限界がきた。

 パニックで頭の中が真っ白になり、

 『困難を前に、ただただ泣きじゃくるだけの、普通の8歳児』になる。


 大声で泣きじゃくるリーブルを見つめながら、

 センは、実験動物を観察しているかのような、実にフラットな顔で、


(ここまで、だいぶ頑張っていたが……ここらが限界かな? それとも、まだいけるかね……)


 心の中でそうつぶやいてから、


「泣いて解決することなんかねぇぞ。俺を止めないと、お前の母親は死ぬ。止めたらお前が死ぬ。どっちだ? 選べ」


 そう言葉をかけるが、

 リーブルは、爆音で泣きわめくばかりで、

 『答えを出そう』という雰囲気はゼロ。


 そのザマを見て、センはため息をつき、


(……この手の試験を、これまでに何回かやったことがあるが、最後の一歩を踏み出せたやつは、そうそういねぇ。『ゴリゴリの絶望』を前にして歯を食いしばれるヤツなんてのは、本当に稀。……リーブル。……お前の『親を思う気持ち』は本物だろう。だが、『ソレ』と『自分の命をかけられるかどうか』ってのは、まったくの別もの。言うまでもなく、『命を捨てる覚悟がないから』って『想いがニセモノになる』わけじゃねぇ。だから、『親を守るために命を捨てるという覚悟』を決められなかったことを責める気は一切ない……が……)


 過去を思い出しつつ、

 センは、リーブルに、


「……不合格だ、リーブル。三級は当然として、『5級試験に合格するレベル』に達していない」


「ひっぐ……ひっぐ……ふぐ……ぅぁあああっ……ひっぐ……」


 本来の予定だと、

 ここでセンの試験は終了だった。

 しかし、


「う……うぎぃ……」


 奥歯をかみしめているリーブルを見て、

 センは、心の中で、


(……泣きわめきながら、しかし、ギリギリのところで、まだ熱が残っている……試すか……最後に……)


 そうつぶやくと、


「不合格ってだけで終わると思うなよ。俺は、『身分不相応の挑戦をするガキ』と、『生意気にマセたガキ』が大嫌いでな。両方の性質を持つお前には、心底イライラしている。というわけで、本物の絶望を知ってもらう。これから、お前の親を殺してくる。そして、その死体を、お前の前でソテーにして食ってやるよ。リーブル、これはお前がはじめた物語だ。涙を呑んで、受け入れろ」



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