133話 限定空間。
133話 限定空間。
山に入ってから、ちょうと中間地点ぐらいのところ。
傾斜の強い山道に、体力の少ない者は、ゼェゼェと息を切らしている。
『大体の頃合い』を見計らい終わったセンが、
静かに、誰にもバレないように、ソっと、
(限定空間ランク5)
魔法反応を極力抑え込んだ上で、『強固な空間魔法』を展開させていく。
――この空間魔法に閉じ込められたのは、現段階での上位100位以下の面々。
空間魔法に閉じ込められた受験生たちは、
当然のように、戸惑って、
「はぁ? なんだ? なんで、急に空間魔法が!!」
「アホな山賊でも襲ってきたか?!」
「ふざけやがって……この大変な時に……」
「どこの誰がやったか知らんが、さっさとここから出しやがれ、クソが!」
「自力で脱出すると体力を消耗するんだよ! こっちは試験で忙しいんだ!」
「魔法を解除しろ! じゃないと殺すぞ! 言っておくか、ここにいる数百人は、全員、六級試験合格者だぞ!」
と、真っ当な怒りをあらわにしていく。
そんな中、一人の、聡い受験生『リーブル』が、
(この空間……今……400人ぐらいいるんだよな……そんな大勢を楽に収容できるほどの空間魔法……大きさだけじゃなく……この空間……めちゃくちゃ、強固な気が……)
こめかみに脂汗を浮かべながら、心の中で、そうつぶやく。
リーブルは8歳の少年。
素晴らしい才能を持っており、8歳の現時点で、既に、存在値28。
数値だけでみれば、『一つ前の6級試験で落ちた上澄み連中』より下だが、潜在能力の高さが、ルーミッドに認められたため、ここまで残ったという、なかなかの逸材。
「この空間魔法を解除しろ! おい、ごら、聞いてんのか! どこのどいつか知らんが!」
「何がしたいんだよ、ほんと!」
などとわめいている受験生たちの前に、
『仮面をかぶった一人の男』が現れた。
仮面をかぶった男……『セン』は、
魔法で声を変化させた上で、
「……何がしたいかって? もちろん、試験官ごっこだよ。この状況で、それ以外の可能性は皆無だろ。おバカさんめ」
などと言いながら、
アイテムボックスから、魔カードの束を取り出して、
手の中で無意味にシャッフルしながら、
「2級試験くらいまでは大人しくしてようかとも思ったけど、ここまでの試験が、どれも、あまりにタルいんでさ。選考作業を手伝ってやろうと思ってね。俺が君たちを判定してやるよ」
そんなセンのテンプレな発言に、
受験生たちは、
「こいつ……もしかして、山賊じゃなく、受験生なのか?」
「妨害にきたってこと? ふざけやがって……」
「もう対話は不要だ。こいつを殺して解除すればいい」
「全員でフクロにしよう。ここにいる全員でかかれば、たとえ相手がクロッカ様だったとしても勝てるぜ」
「……いや、さすがに、クロッカ様には勝てないだろ……てか、そんな危ない発言すんなよ。不敬罪で処罰されたいのか……」
意気揚々と武器を構える面々を見つめながら、
センは、魔カードの束の中から、一枚を取り出して、
「きみたちまとめて、これ一枚で十分かな」
などと言いながら、
『治癒ランク1』の魔カードを、受験生たちに見せびらかす。
「ランク1の回復魔カード一枚で何が出来るってんだ、バカが!!」
そう言いながら襲い掛かってくる受験生。
そんな、血気盛んな受験生の腕を、センは、魔カードでスパっと切り落とし、
「魔カードとして使う気なんかねぇよ。武器として使うんだ」
腕を切られた受験生は、
「う、うわぁああ!」
と、動揺している。
あっさりと他人の腕を切り飛ばしたセンを見て、
ほかの受験生たちの間に緊張が走った。
「こ、こいつ……マジかよ……」
「本物のサイコじゃねぇか……」
「てかよぉ……ま、魔カードで、人の腕とか切れるのか? 魔カードって、そんなに鋭利じゃねぇだろ……」