132話 特級ぐらい、寝ててもクリアできるぜ。
132話 特級ぐらい、寝ててもクリアできるぜ。
六級試験が終わったタイミングで、いったん、昼休みになった。
セン的には、昼休みとかいらんから、さっさと進行して、さっさと終わってくれねぇかなと思っていたが、文句を言ったところで、どうにかなるものでもないので、仕方なく、休憩することにした。
校庭の隅で、寝転がっていると、
周囲に、教え子たちが集まってきて、
中学生の遠足のように、わいわいと騒ぎ出した。
『外から祭りを眺めて黄昏ること』を至上の喜びとしているセンからすれば、
ガヤの中心にいるのは好ましいことではないのだが、
しかし、この状況で逃げるのも、性格的に難しかったので、
しかたなく、輪の中心で、教え子たちの話に耳を傾ける。
落ちてしまったハプとレクを慰めるターン、
ルーミッドに一撃かましてみせたヤンを称賛するターン、
ハロとラスがどこまでいけるか予想するターン、
次の試験内容に関する考察をするターン、
と言った具合に、話題が順調に推移していき、
場が温まったところで、ポニテ常識人担当のリノが、
センに、
「私たちは、たぶん次か、その次ぐらいが限界だけれど……先生は特級までいけますよね?」
と、話題を振ってきた。
そんなリノの期待に対しセンは、
「当り前だろ。てか、特級ぐらい、寝ててもクリアできるぜ」
そのアホな発言に、ラスが、呆れ交じりに、
「いや、先生……流石に、寝てたら無理じゃないですか?」
と、冷静な言葉を投げかけてくる。
「分かってねぇなぁ、ラス。お前はそんなんだからダメなんだ。常に常識にとらわれていて、大局が見えていない。世のなかってのは、もっと広くて大きいんだ。深い視野で世界を見渡せ。そうすれば、真理のカケラが見えてくるはずだ」
「は……はぁ……」
「テキトーな返事してんじゃねぇぞ、ラス。お前、俺が今言ったこと、理解できたのか? 言っておくが、俺は、自分が何言ってんのか、一ミリも分からなかったぞ。ナメんなよ」
あまりにもバグった理不尽をつきつけられて、
頭がくらくらしてきたラス。
他の教え子たちは、『センの頭のおかしさ』に笑いをこらえられない。
――そんな、穏やかな時間が流れていく。
★
昼休憩が終わり、
五級試験が始まった。
五級試験の内容は『かけっこ』だった。
学校の裏手にあるコグル山という名の、かなり大きな山。
学校の校門から、その山頂までかけっこして、上位300名に入れたらクリア。
距離的に言うと道中全部あわせて10キロぐらい。
極めてシンプル。
これまでの試験の中でも、トップクラスに分かりやすい体力勝負。
「位置について、よーい、ドン」
と、ルーミッドの掛け声で、一斉に走り出す受験生たち。
先頭を走るのは当然クロッカ。
スペックが違いすぎた。
あっという間に見えなくなる背中。
まるで、スポーツカーと自転車が争っているみたい。
仮に『本気』を出した場合、クロッカに続くのは、ビシャになるだろうが、
ビシャは、この等級試験で、極力『力を隠す気』でいるので、
テキトーに、上位80位前後のところをキープして、ノンビリ走っている。
センはというと、
だいたい、ビシャの後ろぐらいをついて行っている感じ。
センの場合も、もちろん、本気を出せばスポーツカーになれるが、そんなことをして目立っても特に意味はないので、ノンビリ走っている。
ちょうど、中間地点まで走ったところで、センは、チラっと、後ろを確認する。
(魔術学院の学生は、全員、上位100位以内には入っているな……今、100位以下の連中は、だいたい、この五級試験か次の四級試験で落ちる連中……ふむ……)
色々と考えた末に、
センは、ニっと黒い笑みを浮かべ、
(よし……アレ、やるか……)
心の中で、ボソっと、そうつぶやいた。