130話 センに助けてもらおう。
130話 センに助けてもらおう。
(うっかり、強めに反撃して、気絶させないように気をつけないとなぁ……)
などと思っている間に、試験は開始した。
ここまでの6セットの間に、ルーミッドは、400~500人ぐらいを気絶させている。
それだけ豪快に暴れ回っているのだが、まだまだ、全然元気に、受験生たちをボッコボコにしていくルーミッド。
(十七眷属のルーミッド……まあまあ、そこそこ強いって感じかな。十七眷属の中でも、強さ的には上の方。……エトマスより若干弱い……ぐらい……かな)
センは、ルーミッドと、適切な距離を取り、彼を測定しながら、周囲の面々の観察もしていく。
今回の100人の中には、センの教え子である『ムードメーカー担当のヤン』も混じっている。
抜け目のないヤンは、センの背後を陣取り、そのポジションを全力でキープしている。
『ルーミッドが襲い掛かってきた時は、センに助けてもらおう』という算段が見え見え。
その小賢しさを尻目に、センは、
(……まあ、別にいいけどな……ヤンの実力なら、俺の介護がなくても、五級ぐらいはクリアできるだろうし……)
この辺の線引きに関して、結構、センはシビアだったりする。
もし、ヤンの存在値が、もっと低く、『六級試験をクリアできる水準』に達していなかった場合、センは、絶対にヤンを助けない。
センは過剰な手助けはしない。
『命がかかっている』とか、『理不尽に潰されそうになっている』とか、そういう、『ガチでやべぇ状況』・『胸糞な極限状態』なら、色々と話が変わってくるが、こういう、試験的な状況下においては、徹底して線引きを大事にしていく。
『救うに値する人間』が本気で困っている時は、自分の身を削ってでも救おうとするところがある……それは事実だが……『親切の押し売り』や『過保護の安売り』なんかは、禁じ手にしている。
――センの後ろに安全圏を見出したヤンは、必死になって、そのポジションをキープする。
そんなことをしている間に、どんどん、他の受験生がルーミッドに飛ばされていく。
今回の100人は、センとヤン以外のメンツの平均値が低く、
30秒もしない間に、80人ぐらいが気絶させられてしまった。
母数が減った分だけ、狙われやすくなる。
残りの人数が15人を切ったところで、
ついに、ルーミッドは、ヤンをロックオンして突撃。
ヤンは、センを盾にしようとするが、
ルーミッドはセンを無視して、ヤンだけを狙う。
ルーミッドはバカじゃない。
すでに、今回、等級試験に参加している3人の魔人が、3人とも、
『魔人の中の上澄みである』ということに気づいている。
それだけではなく、へたしたら、3人とも自分より強いかもしれない……と、なかなか質の高い予想まで立てている。
だから、ルーミッドは、センをシカトしてヤンを襲う。
すでに、ルーミッドの中で、センは六級試験を合格しているのだ。
無駄にやりあう必要はない。
ヤンは、
「うわわわわっ」
センという盾を無視し、自分に向かって猪突猛進をぶちかましてきた十七眷属にブルブルと震える。
恐怖で反応が遅れる。
ゆえに、ルーミッドのまっすぐな一撃を、ヤンは避けられなかった。
ガツンと顔面に一発をもらって、ヤンは吹っ飛ぶ。
「ぐぅっ!!」
吹っ飛ばされている中で、
ヤンは、
「治癒ランク1!」
治療をしつつ、
「光壁ランク1!」
バリア系の魔法で防御力を底上げしていく。
ヤンは、器用貧乏系のオールラウンダー。
高ランクの魔法は使えないが、
かわりに、多種多様な魔法を扱うことができる。
「呪縛ランク1!」
相手の動きを封じる魔法を放つヤン。
もちろん、十七眷属のルーミッドが、ヤンのランク1魔法ごときで動きを止められることはない。
ルーミッドは、サクっと、ヤンの鎖をちぎって、そのままの流れで、
ヤンの顔面に、もう一発をぶち込んでいく。
「ぐえっ!」