128話 腕相撲。
128話 腕相撲。
今回、クロッカから『魔人も試験を受けられるようにしてくれ』と頼まれて承諾したのは、『試験を受ける機会が均等になること』に関しては、ルーミッドの中での『ラインを超えている事』ではなかったからで……仮に、ありえないが、クロッカが特級を落ちて、『受かったことにしなさい』と命令してきても『申し訳ありませんが、規則ですので』と丁寧に拒否する気構えはある。
まあ、実力的に、龍神族が落ちることはありえないため、その気構えを発揮するチャンスはないのだが。
「魔人が相手か……あまり触れたくないんだがな……」
町のパン屋は、センを見下しながら、そう言った。
魔人に対する差別は、基本、どこでも同じ。
差別しない者もいるにはいるが、けっこう珍しい。
ゴキブリを素手でつかんで、口の中に放り込める人……ぐらい珍しい。
「しかし、ヒョロそうな魔人だな……こんなゴミの相手をしないといけないとは……涙が出てくるぜ。下手な抵抗をすると、腕をへし折るから、さっさと負けろよ。こっちは、後の試験に備えて、少しでも体力を温存したいんだ」
と、とことんセンをバカにしていくパン屋さん。
腕力には相当自信があるようで、
見た目的にはヒョロガリなセンなど相手にならないと思っている様子。
「レディ、ゴッ」
結果で言うと、言うまでもないが、
「ふぐ……ぐぐぐっ!」
パン屋さんは、必死になって、センの腕を倒そうとするが、
まったく、ピクリとも動かない。
センは、五秒ほどかけて、『顔を真っ赤にしているパン屋さん』の顔を観察していたが、
「できれば、もう少し遊んであげたいんだが、後の試験にそなえて、少しでも体力を温存したいんでね……申し訳ないけれど、終わらせてもらう」
ボソっと、そう言ってから、
スーっと、ほとんど力を入れることなく、
パン屋さんの腕を押していく。
まるで、赤子と親の勝負。
ストンっと、とても軽い感じで決まる勝負。
パン屋さんは、何が起こったのか分からず呆然としていた。
勝利したセンは、アクビを噛み殺しながら、
「八級試験は最高の内容だったな。全部、こういう試験だったらいいんだけどなぁ。そしたら、2時間ぐらいで終われるからさぁ……でも、そういうわけにはいかないんだろうなぁ……だるいなぁ……」
などと、そんなことを言いつつ、うーんと、背伸びをした。
自分が『やりたい』と思ったことなら、『スライムを数十年単位で、延々と狩り続ける』という苦行をこなすこともできるのだが、『特にやりたいとも、必要だとも思っていないこと』に対しては、とことん怠惰になってしまう……それが彼、センエースの特徴の一つ。
★
ちなみに、八級試験の腕相撲だが、
流石に、クロッカは免除扱いとなった。
そのことに関して、受験生は誰も文句は言わない。
というか、逆に、この腕相撲試験で、クロッカが普通に参戦していたら、軽く暴動が起きていただろう。
――また、腕相撲の組み合わせには、ルーミッドなりの、いくつかの配慮があったのか、
『ある程度実力がある者同士』がぶつかりあうケースは少なかった。
パン屋さんの例もあるので、全員ではないが、
基本的に、五級ぐらいまで受かる実力者は、だいたい八級を突破している。
魔術学院の在学生は、今のところ、全員、残留。
魔術学院の学生は、3組の生徒であろうと、一応は、入試を突破しているので、八級ぐらいは、流石に受かる。
とはいえ、例年通りなら、3組の中から、2~3人は落ちたりもする。
そういう前提を踏まえて考えると、今年の3組は、流石、センの教導を受けているだけあって、全員、漏れなく有能だった。
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七級試験の内容も、かなりシンプルなものだった
10人対10人の綱引きを行うというもの。
例によって、クロッカは免除、かつ、組み合わせはルーミッドの独断。
「うわ、私のチーム、魔人がいるんだけど、最悪……」