126話 試験官ルーミッド。
126話 試験官ルーミッド。
等級試験は、金さえ払えばだれでも受けられる試験で、
例えるなら、『価値の高い英検』みたいなもの。
八級が一番下で、七級、六級と上がっていき、一級の上に特級がある。
八級の試験に合格すれば、七級の試験を受けられるようになり、全ての試験をクリアすれば、見事『特級』を獲得……みたいな感じの、勝ち上がり方式の試験。
三級を獲得できるかどうかが『優秀な人材か否か』の目安となっており、
三級を取得済みの学生の場合、一部の授業が免除になったりする。
また、入学前に三級を獲得した場合は、入試が免除になったり、振り分け試験で1組が確定になったりもする。
卒業後の就職活動でも、『実績』として有用であり、
一級や特級を獲得している場合、『最終面接までフリーパスになる』という場合もある。
また、就職後も、三級以上をもっていると、そこそこの手当てがつくことが多い。
『特級を持っている』というのは、日本だと、『東大出てます』ぐらいの価値がある。
「絶対に、三級までは獲得するように。まあ、あなたの場合、普通にやっていれば、確実に特級を取ると思うけれど」
「あれって、魔人は受けられないんじゃなかったでしたっけ?」
「その辺の慣習みたいなものは、私が丹念に潰しておいたから問題ないわ。等級試験の責任者である十七眷属のルーミッドとは、比較的、親しくさせてもらっているから、エトマスが理事をしている魔術学院にあなたをねじ込むよりも、はるかに簡単だったわね。ビシャとジバも受けられるようにしておいたから、一緒に受けてきて」
「……魔人が特級をもっていたって、生意気だって思われて終わりじゃないっすか?」
「生意気だとは思われるでしょうけれど、有能性を具体的にアピールできるわ」
「……まあ、そうっすね……」
「3人の特級を配下に持つ者と、1000人の無印を配下に持つ者……どっちの方が『発言権が上になる』と思う?」
「そりゃ、まあ、前者でしょうね。特級持ちは、無能1万人以上の価値がある……と聞いていますから」
「というわけで、サクっと特級を取ってきて。あ、あとビシャには、これまで通り、本来の力はなるべく隠す方向でいくように言っておいて。あの子の実力なら、かなり手を抜いても特級を取れるはずだから」
★
そんなこんなで、等級試験の日を迎えたセンたち一行。
等級試験は5年に一度しか受けられないのと、魔術学院の学生であれば、受験料が免除になるということもあり、魔術学院の学生は、1組から3組まで、全員が受けにきていた。
「……人がゴミのようだ……」
等級試験の会場は、毎年変わるのだが、
今回は、ダソルビア魔術学院内で行われることになった。
ダソルビア魔術学院は、学生や教職員の数はそこまで多くないのに、むちゃくちゃ広いので、普段は、どこもかしこも閑散としていて、非常に静かで落ち着いた雰囲気のある場所なのだが、等級試験が行われている間だけは、人がごった返している。
等級試験は、金さえ払えば、だれでも受けられるし、
五級ぐらいまでなら、普通に鍛練を積んでいるだけで合格できる難易度でもあるため、
『腕試し』『手当てによる給料のアップ』『就職活動の際のハク付け』などを目的に、結構、多くの受験生が集まる。
今回集まったのは7000人ほど。
毎回、だいたい、数千ほど集まり、多い時は5000を超える……というのが通例なので、今回はかなり多い方。
「……試験官を担当するルーミッドだ。よろしく」
十七眷属の一人、ルーミッドが、壇上に上がって、受験生たちを見渡しながら、そう言った。
基本的に、等級試験は、ルーミッドが全ての試験の試験官を担当する。
人を雇えないから一人でやっているというわけではない。
これは、彼なりのこだわり。
『金はあるのにアシスタントを雇わない漫画家的なこだわり』……みたいな感じ。