125話 俺の心には響かない。
125話 俺の心には響かない。
センは、エトマスの金縛りを部分的に解除して喋れるようにしてあげた。
すると、エトマスは、かすれた声で、
「もう……やめて……」
と、懇願してきた。
センは、
「はぁ……」
と、タメ息をついて、
「……『やめてください。私が悪かったです。もう二度としません。申し訳ありませんでした。反省します』……ってのを、心の底から1万回ぐらい言ったら考えてやるよ。それ以外の発言は、全て、獣の戯言。俺の心には響かない」
そう言いながら、センは、エトマスの破壊を再開する。
口を利けるようにしたままなので、悲鳴が頻繁に響き渡る。
センが手を止めるたびに、
エトマスは、『やめてください』『ごめんなさい』と、丁寧な言葉を使ったが、
センは、冷めた顔で、
「キッチリ、フルバージョンの謝罪じゃないとカウントしないぞ。よって、まだ0回だ。俺がお前の謝罪を聞き届けるかどうか……を考えるまで、あと1万回。遠いねぇ」
そう言いながら、エトマスを、どんどん解体していく。
死にそうになったところで回復魔法をかけて、また限界まで壊す。
そんなことを繰り返す。
センの無慈悲さが、あまりにも徹底しているので、
これは『本気で謝罪しないとまずい』と思ったのか、
「セン……センくん! 謝罪するわ! どうか許してほしい! 悪気はなかったの! これから、君の対応を変えるから! 約束するから! 君の靴でもなんでもなめる! だから!」
そこに嘘はなかった。
少なくとも、この瞬間は。
……助かるためなら何でもしてやると覚悟を決めた瞬間だった。
プライドも意地もかなぐり捨てて、命を守ることだけを考えての叫び。
それに対し、センは、
「極限状態の一発謝罪に意味はない」
とことん冷めた声で、
「ここから、長時間……何日もかけて、俺はお前を壊し続ける。その中で、ひたすらに謝り続けろ。拷問されている中での1万回フルバージョン謝罪……完遂できたら、その時は、お前の謝罪に耳を傾けるかどうか……考えてやる」
「……」
真っ青な顔でセンを見ているエトマス。
あまりにも絶望的な状況に、頭がくらくらしてくる。
「俺の言葉を嘘だと思うのは自由だが……それじゃあ、一生、悪夢を見続けるぞ。永遠の悪夢がお望みなら……まあ、好きにしてくれ。その時は、とことん付き合ってやるよ」
こうして、エトマスの地獄の日々がスタートした。
★
――翌日、
「うわぁあああああっ!」
目を覚ましたエトマスはベッドから飛び起きて、全身を確認する。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
心身ともに、ひどく憔悴している。
動悸と脂汗が止まらない。
「はぁ……えっと……あれ……?」
悪夢を見ていた……気がするが、
しかし、どんな夢だったか思い出せない。
夢とは大体、そういうもの。
「うっ……ぁあ……」
膝から崩れ落ちる。
『ただの悪夢だから気にするな』と、理性の部分が脳に語り掛けてくるが、しかし、心身の疲労があまりにも大きく、気力がまったく湧いてこない。
疲れ果てているエトマスは、
仕方なく、配下に、『今日は学校を休む』という連絡だけいれて、
倒れこむように、ベッドに戻った。
――その日から、エトマスは、ずっと悪夢を見続けることになる。
何があろうと、『センエース』を『本気で怒らせること』だけは、絶対にやってはいけない……ということを、彼女の無意識は痛感する。
★
エトマス理事が体調不良を理由に、学校を休むようになってから、
数日が経った、ある日のこと。
センは、クロッカから、
「今度の等級試験、あなたも受けておくように。受験料はこちらで出しておいたから」
と、唐突に命じられた。
「え、俺も? マジか……だるぅ……」
等級試験は、金さえ払えばだれでも受けられる試験で、
例えるなら、『価値の高い英検』みたいなもの。