123話 理不尽な罰。
123話 理不尽な罰。
残されたケイルスは、流石にバツの悪そうな顔をしていたが、
エトマスの手前、何も言うことができなかった。
そして、ケイルスも、そのまま、3組の面々に背中を向けて去っていく。
残されたのは、3組のメンバーとセン。
いまだ、土下座をしているメンバーを、センは黙って見ていた。
センの目に、冷たい炎が宿る。
――その後、
3組の面々は、エトマスの『理不尽な罰(200メートルダッシュ100本)』を文句ひとつ言わずにこなしていった。
もちろん、今回の処遇を、みな、不満に思ったが、しかし、文句を言っても、罰が重くなるだけだと思い、黙って受け入れた。
必死に努力して、能力を高め、大会中も、全力を賭して闘い、
どうにか優勝をもぎ取った……
その結果が、これ……
世の理不尽を前に、3組の面々は、走りながら涙を流した。
そんな3組の姿を、センは最後まで見届けた。
★
その日の夜、エトマスは、ご機嫌で、自室のベッドにもぐりこんだ。
気に食わないクソ魔人と、ソレに懐き始めた鬱陶しいガキどもをボコボコに出来たので、久しぶりに気分がいい。
こういう日にこそ、権力の強さと旨味を実感する。
他者に対して、好き放題、理不尽をふりかざせる……これが、権力の利点。
なんという素晴らしい力。
ホクホク顔で眠りにつこうとするエトマス。
そこで、気付いた。
『強烈な金縛り』にあっていること。
「……っ……っっ」
まったく身動きできないし、しゃべることも出来ない。
完全なる金縛り状態。
そんな彼女に近づく影が一つ。
それは、エトマスのよく知る男だった。
とても不愉快で、鬱陶しい、ゴミクズ男。
「よぉ、エトマス ハッピーかい?」
と、そんなことを言いながら、彼女の顔を覗き込む男――名前はセンエース。
クロッカが送り込んできた魔人の教師。
エトマスは、センを、人殺しの目で、にらみつけて、
「っー、っー」
『何を言っているか分からないが、おそらく、文句か罵詈雑言を叫んでいるのだろう』……と思ったセンは、この空間全体に、防音の魔法をかけた上で、
「なんて?」
と耳を傾けながら、エトマスの金縛りを部分的に解除して、喋れるようにしてあげる。
喋れるようになったと分かったエトマスは、
センの鼓膜を破ろうとしているかのような、腹の底からの怒声で、
「貴様ぁああああああああああああああああ!!」
とにかくすごい声量だったが、
その声が外に漏れることはない。
センは、両手で耳をふさぐポーズをとりながら、
「うるせぇなぁ、クソババァ……耳が痛ぇじゃねぇか」
と、普通の不満を言いながら、
これまた普通に、
ガツンッ!!
と、エトマスの、無防備な鼻に向けて、拳を突き出す。
「ぶがぁあっ!!」
もちろん、余裕で折れる鼻。
ひん曲がった鼻からガンガンと響く激痛。
「あぁああ!! ああああ!」
全身で苦痛を訴えたいのに動かない……というストレスから、さらに痛みを強く感じる。
そんな悪循環に陥っている彼女を、冷めた目で見下ろしながら、センは、
「痛い?」
と、アホな質問をする。
その瞬間、カーっと頭に血が上り、
ほんの少しだけ痛みを忘れたエトマスは、
「貴様あぁ! こんなことをしてぇええ! どうなるか分かっているのかぁあ!!」
その叫びに対し、センは、
「ははは。大丈夫、大丈夫。今から起こることは、全部夢だから」
「はぁああああ?!」
「記憶の操作とか、認識の阻害とか……いくつかの魔法を併用して、今から起こることを、お前の中で、『あんまり覚えていない夢』として処理することができる。完全に忘れてもらっても困るから……『昨夜、酷い悪夢を見た』という記憶は残すけどね」
「なっ……あっ……」
「特定のタイミングで、サクっと、下半身不随にでもなってもらおうかと思っていたが……お前には、直接、俺の怒りを知ってもらおうと思ってな。お前のことは、そう簡単には壊さない。じっくりと時間をかけて、徹底的に……『自分が誰を怒らせたのか』を……教えてやる」