122話 賭けの結果。
122話 賭けの結果。
今回、3組のメンツが大幅に成長している……ということは、エトマスも勿論理解している。その立役者がセンであると、十分に理解している。アホではないので。
……ただ、それとこれは、いつだって別。
むしろ、センが素晴らしい結果を出したということが腹立たしい。
センが素晴らしい結果を出さなかったら……3組がカスのままだったら……エトマスは、きっと、3組の生徒たちに、こんなことは言わなかった。
(アホの魔人は、使えないアホらしく、みっともない無様だけを晒していればいいのに……)
嫌いなヤツの失態は甘露だが、ちょっとでも成功されるとハラワタが煮えくり返る。
むかつく嫌いな奴は、醜態だけを晒し続けて、ひたすらに底辺を這いずり回っていればいい。
いっそ死ねばいい。
自分という命の醜さを恥じて死ね。
そうすれば、少しは褒めてやる。
――というのが、エトマスの実直な視点。
「今回、クロッカ様は、あなた達の現在の実力を正確に測った上で、『この程度まで力を抜けば、あなた達でも勝てる』というラインを設定して闘ってくださった。そこまでしてくださったのだから、あなた達は勝つべきだった。クロッカ様のご配慮を真摯に受け止めて、是が非でも勝たなければいけなかった……なのに、あなた達は負けた。みっともなく、全滅した。これは大きな罪であると言える。よって、私は、あなた達に罰をあたえる。まずは、全員、200メートルダッシュ100本!! その後、3組全員で、この場の跡片付けをしなさい!」
だいぶ目茶苦茶なことを言っているのは、エトマスも分かっている。
けれど、アドレナリンに支配されている今……もう、自分でも自分を止められない。
「1組と2組の皆さんは、怠惰な3組の面々とは違い、よく頑張りました。今日は帰ってゆっくり休みなさい」
これまでの様々な鬱憤を晴らすように、
セン率いる3組を徹底的に貶めていくエトマス。
「あ、ケイルスはこの場に残りなさい」
そう言って、1組次席のケイルスに声をかける。
「あなたは、確か、3組の面々と賭けをしていたのよね? 敗北した方が頭を下げるという賭けを」
「え、あ、はい」
「では、その約束を清算しておきましょう」
黒く微笑みながら、そう言うと、
エトマスは、3組の面々に、
「さあ、3組の皆さん、賭けはあなた達の負け。ケイルスに頭を下げなさい。もちろん、土下座で」
そこで、センが、
「エトマス理事……既に、俺が、ケイルスには頭を下げていますよ。負けた時の条件はすでに果たしております。『勝負を提案したケイルス』と、『それを受けた俺』の間で交わされた『契約』に、こいつらは関係ありません」
と、正式な苦言を呈するが、
エトマスは、すまし顔で、
「私はそうは思わない。3組が勝った場合、ケイルスは頭を下げる予定だった。ということは、実質、この賭けは、ケイルスVS3組の闘い。となれば、負けた3組は頭を下げるべき。理はこちらにある」
「……賭けを受けたのは俺であって――」
と、食い下がるセンの頬に、
エトマスは、さらに、連続で、バチィイインと裏手を叩き込んでいく。
顔が真っ赤になるセン。
そんな痛々しいセンの姿を見て、
最初に、いたたまれなくなったハロが、スっと土下座の姿勢をとり、
「勝てませんでした。申し訳ありませんでした」
と、敗北を認めて頭を下げた。
それに続くように、他の3組メンバーも頭を下げていく。
そんな教え子たちの姿から、センは目を離さない。
エトマスは、頭を下げている3組のメンツを、つまらなそうに一瞥してから、
「プライドがないというのも醜いものね」
と吐き捨てると、
3組の面々に何か言葉を投げかけることもなく、
そのまま、背中を向けて歩きだした。




