121話 私の命令に背くなど、言語道断。
121話 私の命令に背くなど、言語道断。
「クロッカ様はお優しい御方なので、頑張った3組の面々に勝ちをお譲りになられたご様子……だけれど、実際のところ、5分が経過する前に、そこの魔人は倒れてしまい、あなたによって支えられてしまった」
そう言いながら、エトマスは、センの目を見て、
「5分経過する前に、あなたが出てきて、選手を支えた……この時点で反則負けだけれど、そこに目をつぶったとしても、単純に、試合のルールの話として、5分以内に全滅してしまった3組の敗北よ」
「クロッカ様は5分経ったと言っていました。クロッカ様の御言葉をシカトするおつもりですか? エトマス理事は、ずいぶんと、命知らずな御方ですね……まさに、神をも畏れぬ諸行」
「クロッカ様は5分経過したと判断したようだが、私が計測した限りでは、事実として、4分57秒で、3組は全滅している。これは、疑いようがない事実。よって、今回のクラス対抗戦の優勝者は1組!」
「……」
センは理解する。
エトマスは、この件に関して、絶対に発言を覆さない。
(クロッカは魔法を使ったから反則負け……ってのは、クロッカのメンツとかを考えると、流石に、言うべきじゃねぇ……しかし、このままだと、普通に敗北扱いされちまう……さて、どうしようか……)
などと、センが考えていると、
そこで、エトマスが、厳しい目つきになり、
「だいたい、あなた、仕事はどうしたの? こんな短時間で終わる作業量ではなかったはず。最短でも、今日一日はかかるはずだけれど?」
「自分に出来る範囲の全力を賭して、効率的に作業を進めた結果、現場の作業員が想定していたよりもだいぶ早めに進行したので、少し長めの休憩を頂くことができました。長めの休憩とはいっても限度があるので、そろそろ、帰らないといけませんが」
「つまり、私に命じられた仕事をほっぽりだしてきた……と」
「いや、あの、聞いてました? 効率的に作業を進めた結果――」
と、センが言い訳しきる前に、
エトマスは、センの頬を裏手でズバシィンっと弾いて、
「仮とはいえ……私の学園に所属する教師でありながら、私の命令に背くなど、言語道断。本当に使えないゴミね……」
と、さげすんだ目でそう言い捨ててから、
続けて、
「あなたみたいなゴミが教師をしているから、3組は負けてしまったと言えるでしょう。クロッカ様が、あれだけ、常軌を逸したレベルのハンデをくださったというのに、それでも負けてしまう無能……己の教師としての資質の低さを、あなたは正しく理解できているのかしら」
と、ねちねち、センに嫌味を言うエトマス。
そんな彼女に、
ラスが、
「ま、負けてしまった……とはいえ、しかし、セン先生のおかげで、ここまでくらいつくことができました。ですので、エトマス理事……どうか……できれば……寛大な対応を……」
と、
『クロッカが敗北したシーンを直接見ていないラス』は、
正直、センとエトマス、どっちの言い分が正しいか分からなかった。
だが、『この場でどっちを立てるべきなのか』ぐらいは分かるので、
エトマス側に立ち、その上で、センのことも擁護していく。
そんなラスの、センをかばう態度にイラついたのか、
エトマスは、虫けらを見る目で、ラスを見下して、
「敗北者の言葉を聞く気はない。教師がいくらゴミでも、正しい努力をしていれば、1組に勝つことも不可能ではなかったでしょう。あなた達のような『掃きだめの3組なんかに所属している腐ったミカン』は、いつもそう。努力の足りなさが自覚できていない」
今回、3組のメンツが大幅に成長している……ということは、エトマスも勿論理解している。
その立役者がセンであると、十分に理解している。
アホではないので。