119話 ワンパンで脳震盪。
119話 ワンパンで脳震盪。
(これだけ……本気で殴っているというのに……こいつ……なんという根性……効いていないわけがない……実際、顔色は悪くなってきている……だが、鋼の根性で、私の猛攻に耐えている……まずい……時間が……)
すでに4分が経過している。
残り時間はあとわずか。
仕方なく、クロッカは、
(……仕方ない! まずは、取り巻きを処理する!)
カッコ悪いので、出来れば、そんなことしたくなかったが、
クロッカは、奥歯をかみしめながら、ビシャから視線を外し、
『ずっとビシャのサポートをしているジバ』の近くへ突撃。
魔力を込めた拳で、容赦なくジバの顎をぶん殴る。
顎を揺らされて脳が震える。
ワンパンで脳震盪。
体が言うことを聞かない。
ジバが動けなくなったのを確認することなく、
クロッカは、ハロのもとに駆け寄り、勢いのまま、ハロの腹部にヒザをぶちこんだ。
これまでのような手加減をしていないので、流石に一撃で気絶するハロ。
つづけて、クロッカは、近くにいたラスの足を、綺麗なローキックで払って一回転させる。
頭から地面に激突して、即失神。
ラスが死んでいないか、サっと確認して、問題ないことが分かると同時、
(残り38秒……)
ビシャとの距離をつめて、
鬼の連打を浴びせていく。
3組で残っているのはビシャだけ。
あとは、ビシャを戦闘不能にすればクロッカの勝利。
ほかのメンツを秒殺できたクロッカだが、
しかし、ビシャだけは……
(ダメだ……時間が足りない……今の火力では……削り切れない……っ)
徹底して防御に徹しているビシャ。
その硬さを前にして、クロッカは、奥歯をかみしめ、
(……クソ……みっともない)
心の中で、そう吐き捨てながら、
己の体を蝕んでいた毒をオーラで殺していく。
クロッカは思う。
――力量差を考えれば、全てのハンデを鼻で笑いとばした上で完勝しなければいけない。
存在値を抑える指輪、サポートに徹する敵の取り巻き、ぶち込まれた毒……その全てを、優雅に楽しみながら、完全試合にしなければいけない。
ビシャさえいなければ、クロッカはそれが出来た。
ビシャさえいなければ、こんなみっともない無様を晒すことはなかった。
そう思うと、本当に、ちゃんとイラついてくる。
「うぉおお!」
弛緩毒を消して、ハンデを指輪だけにしたクロッカは、
今の自分にできる本気・渾身の一撃を、ビシャに向けて叩き込む。
これで終わらせる……そんなつもりで放った一撃を前にして、
ビシャは、
「武装闘気っっ!!」
ここまで隠してきた、渾身の切り札を切っていく。
「……は?! ぶ、武装闘気まで使えるの?!」
困惑するクロッカの視線の先で、ビシャは、
「残り……20秒……っ!!」
そう叫びながら、クロッカへ突進をしかける。
これまでのような防御一辺倒とは違い、
しっかりと攻撃を仕掛けていく。
攻撃を最大の防御にしていくスタイル。
残り20秒なら、受け続けるよりも、攻め合った方が勝利できる可能性があると判断した。
「くっ……」
クロッカは、焦った顔で、
(か、カウンターを……っ!)
どうにか、ビシャの『暴れ』を止めようと、クロッカはカウンターを試みるが、
「っ! ぐ!」
それを読んでいたようで、『カウンターに合わせたカウンター』を叩き込まれる始末。
武装闘気を使って出力を底上げしているビシャのパワーは、クロッカに届いていないものの、近いところには達していたので、クロッカに、ちゃんとそこそこのダメージを与えることができた。
しっかりとした痛みの中で、
クロッカは、
(つ、強い……というか、強くなっている……)
『センの教え』でビシャは大きく成長したが、
彼女の成長は、それで終わりではなく、
此度のクロッカとの戦いの中で、ビシャは、さらに大きく成長した。
ビシャの潜在能力が、ここにきて大幅に解放されていく。
(く、くそっ……フェイクオーラ! 武装闘気!!)