118話 全てを支配する尊き王の、最も近い場所におるべき女。
118話 全てを支配する尊き王の、最も近い場所におるべき女。
ボコボコに殴られている中で、ビシャは、
(……タンタル・ロプティアス・クロッカ……今は、あんたの方が立場は上……せやけど、それは、セン様が王として君臨するまでの間限定の話……セン様は、確実に、いつか世界の王になる。その時、既存の格差や格付けみたいなもんはゼロになる。セン様が王として君臨なされた時、格や序列は、セン様に対する『忠誠心』と『根本的な強さ』で決まるやろう。あんたは、今、『全てを支配する尊き王の、最も近い場所におるべき女は自分や』と思うとるんやろうけど、それは違う。世界一の男の、最も近くにおる女は……この私や。あんたやない。私はまだまだ強くなる。セン様の教えの下で強くなり……あんたを超えて、セン様の第一伴侶となる……)
野心を燃やす。
ビシャは、地位や名誉や富に関しては興味がない。
そんなものはゴミだとすら思っている。
しかし、センの隣というポジションには、異常なほどの執着を見せている。
その傾向は、実のところ、クロッカも同じ。
クロッカの場合、『世界を平定したい』……という、『特別な立場で生まれたがゆえに抱いてしまった、別の野心』もあるのだが、その『特別な野心』を除いてしまえば、クロッカの中に残るものは、ビシャとまったく同じ。
……実際に殴り合ってみるまでは分からなかったのだが、
殺し合いを始めてから、両者……『自分たちが、同質の波動を内包している』ということに気づいた。
種族も、血統も、まったく異なるけれど、
根本部分の『品質』が、かなりの割合で似通っている……と、
二人同時に気づく。
ちなみに、見た目に関しても似ている部分がある。
ネコ科のような鋭い目とか、クルンとした前髪とか……
なんだったら、体格とかも、似ていると言って差し支えない。
この二人のシルエットが似ていることに、周囲の人間も、なんとなく気づいているが、
流石に『魔人の奴隷』と『龍神族の天才』が似ている……などとは口が裂けても言えないので、周りが、そのことに言及することはありえない。
それに、似ている場所『も』あるというだけで、違う場所も多い。
『髪の色や質、目の色や瞳の形状、肌の色や全体の雰囲気』など、その辺はかなり違いがみられる。
つまり、この二人、外見だけで言えば、『誰が見ても間違いなくそっくり』というわけではない。
あくまでも、『並べてみたら、似ているところもあるよね』……というぐらい。
クロッカは、無駄に煽ってくるビシャを、まだ冷静に、ボコボコにしながら、
「言うまでもないけれど、一応、言っておく……センは私のペット。私の所有物。私と共に生きる犬。……ビシャ、あなたは、そんなセンの配下その1に過ぎない」
「もちろん、理解しております」
「センの全てが私のもの。過去も今も未来もすべて。……そして、センも、そうであることを望んでいる」
「それはどうでしょう」
「……」
しばらく無言でにらみ合う両者。
黙ってにらみ合っている間も、クロッカは、ビシャをボコボコにしていく。
先ほどまでは、まだ、ギリギリ、『冷静さを保った拳』だったが、
今は、もう、そういった配慮みたいなものは消えている。
全力で、ビシャを砕こうとする拳を振りかざす、実に大人げない、獣のようなクロッカ。
だが、どれだけ全力でぶん殴っても、
「っ……っ!!」
ビシャは、一切折れることなく、燃えるような目でクロッカをにらみつけている。
決して反撃せず、亀のように両手足を縮めて、徹底的に防御をかためる。
クロッカは、ビシャの防御をどうにかこじあけようと、必死になって暴力をふるうが、
しかし、なかなか届かない。
(これだけ……本気で殴っているというのに……こいつ……なんという根性……効いていないわけがない……実際、顔色は悪くなってきている……だが、鋼の根性で、私の猛攻に耐えている……まずい……時間が……)