117話 少しだけ本気で対応してあげるわ。
117話 少しだけ本気で対応してあげるわ。
「……な、なかなかの連携だったわね。特に……あなた……ビシャだっけ? あなたの魔法は相当なモノだったわ。褒めてつかわす」
プライドを口にしつつ、
「合計3分……この私を相手にしていながら、3分も持ちこたえた……素晴らしいわ。もちろん、私が遊んでいたからだけれど……それでも、3分も持ちこたえたことは称賛に値する」
そう言いつつ、
自力の胆力だけで弛緩毒に抗いながら、どうにか足に力を込めて、
ビシャの背後に回ると、
「褒美として、少しだけ本気で対応してあげるわ」
『クロッカの強烈な一撃』がビシャを襲う。
綺麗な拳だった。
先天的なえげつない肉体スペックをブン回す。
そんなクロッカの一手に対し、
ビシャは、
「……そこまでステータスが落ちた状態やったら……流石に、多少は対応できるな……」
ボソっと、そう言いながら、
魔法で肉体スペックを底上げした上で、
防御に徹して、クロッカの攻撃を受け止める。
決して反撃はしない。
あくまでも、防御に徹するビシャ。
そうすることで、完封……とまでは言わないが、『削り切るには、相応の時間を要する』とクロッカに思わせることが出来た。
クロッカの中で、少しだけ焦りが産まれる。
(……それなりに本気で攻撃しているのに……まったく崩れない……)
ビシャも、センの教導を受けている。
センの猛攻を受け止めるという鍛錬を経験している。
今のクロッカの攻撃は、センの重たい一撃と比べれば、かなり軽いと言わざるを得ない。
クロッカの連打を防御しながら、
ビシャはニっと笑ってつぶやく。
「セン様の指導を受けとらんかったら、あなたに毒をぶちこむ事なんか不可能やったし、ここで、あなたの攻撃を受け止めることも無理やった……」
ビシャは、足に力を込めて、ダっと距離をとりつつ、
さらに魔法とオーラで、強固に、防御を固めていきながら、
「セン様の教えは本当にすごい。ハンパやない。めちゃめちゃかっこええ男。世界一の超人。真の意味で王になるべき器。……そう思いませんか、クロッカ様」
そんなビシャの発言に、
クロッカは、あえて、ニコっと美しく微笑んで、
「センだけではなく、センを学校に送り込んだ私の功績も、少しは褒めてもらえるかしら? あなたがセンに出会えたのは、私のおかげなのよ」
などと、ビシャをボコしつつも、軽快な茶目っ気を見せていく。
クロッカは別に『ビシャに褒めてもらいたい』などとは微塵も思っていない。
これは一つの牽制。
彼女の底を量るための一手でもある。
クロッカの言葉に、ビシャも、
ニコっと、天使のような、悪魔のような笑みを浮かべて、
「私とセン様は、強烈な運命の糸でつながっているものと思われます。なので、クロッカ様がいなくとも、私たちは出会えていた……と私は確信しております」
その挑発的すぎる発言に、クロッカは、ビキっと表情をゆがませた。
ビシャをぶん殴る手に、少しだけ力が入る。
「あなたの態度……流石に……少しばかり……目に余るわね」
ド直球のイラつきを見せてきた彼女に、
ビシャは、悪魔の笑みのまま、
「偉大なるクロッカ様が、この程度の些事に怒りを感じることなどないでしょう。そこまで狭量ではありますまい、あはっ」
と、さらに煽っていく。
女と女の感情論対決。
同族嫌悪の気質も相まって、互いのヒステリックが盛り上がっていく。
別に敵対しているわけではない……それは互いにわかっている。
むしろ、自分達は共犯者。
センという武器を使って世界に一発かましてやろうと考えている者同士。
そんなことは分かっている。
そんなことは大前提。
ゆえに、コレは『そういう前提』は度外視した感情。
同じオスに可能性を見出しているメスの精神的な主導権争い。
色々な意味で、『よりセンエースに寄り添うことが出来るのは自分である』というアピール。
いわば、ナワバリ争い。