116話 ハンパじゃないセン様。
116話 ハンパじゃないセン様。
ラスは、全ての魔力を振り絞って、
幻影・豪氷矢ランク4を……『3本の実体』を、
クロッカの無防備な全身にぶち込んでいく。
「ぐふっ!!」
普段、クロッカの全身は、膨大な魔力とオーラに守られている。
しかし、逆気閃拳でソレらすべてが逆流している今、
彼女の防御力は、存在値減少の指輪の効果とも相まって、
かなり低下している状態にある。
そんな中で、ねじこまれた、3本の豪氷矢ランク4。
ビシっと氷結状態に陥る。
おまけに、ラスは、今回の豪氷矢に『状態異常耐性を低下させる』というオプションを乗せていた。
ラスの魔法では、『火力を底上げ』したところで、『クロッカ相手ではたかが知れている』ので、『勝利までの5分を稼ぐため』に出来る全部をブッパした。
その、最高の好機を……3組最強の天才にして狂信者『ビシャ』は見逃さない。
「ラスとハロ……セン様の特別レッスンを受けただけあって、あんたら、どっちとも、なかなかえぐいやないか! やっぱり、セン様はハンパやないな!」
ラスとハロの成長に対し、
狂信者ビシャは、『ラス&ハロの資質が高いから』ではなく、
『センエースの教導がイカついからである』だと断定して疑わない。
もちろん、実際の話、センの教えがなければ、二人とも、ここまでたどり着いていないわけだが、しかし、これほどまっすぐに『センだけの手柄だ』と思えるところに、彼女の異常性というか……センに対する偏愛がうかがえる。
「魔毒呪縛ランク4!!」
(魔毒呪縛ランク6!!)
ビシャは、ここぞとばかりに、
クロッカに対して、最大級のいやがらせ魔法をぶちこんでいく。
呪縛で動けなくしたうえで、弛緩毒をぶち込むという猟奇的な魔法。
ビシャの毒は、スペックが非常に高い。
本来であれば、最初から、毒を中心に闘いたかったのだが、クロッカの状態異常耐性が高すぎたため、『毒系を使っても魔力の無駄にしかならない』と判断し、ここまでは温存していた。
「ぶぐぐっ!!」
ビシャの魔毒呪縛をもろにくらって、クロッカは、ゲロを吐きそうになった……が、立場がある彼女は、鋼の精神で、吐くのを我慢する。
どうにか、踏ん張って、抵抗に集中……するが、
ハロ&ラスの切り札連打で削られたのが、思いのほか痛く、
「うっ……」
体に力が入らない。
HP量がハンパじゃないので、毒でジワジワと削られていくことに関しては問題ないのだが、動きを制限されたというのが、かなり鬱陶しい。
クロッカは悩む。
正直、解毒するのは、そこまで難しくない。
なぜなら、クロッカも、ビシャと同じく、毒系の魔法を得意としているから。
ただ、毒系の魔法を得意としているからこそ、プライドの問題で、解毒に踏み切ることが出来なかったりする。
この辺の感覚は、完全にただの感情論なので、どこまでいっても、当人にしか理解できない領域。
(この私が……この程度の毒で……オタオタするなど……そんなみっともない姿、晒せるか……っ)
格下の毒魔法を、慌てて解毒とか……そんな情けない真似はできない。
その行動のどこが情けないのか……それは常人には理解できない。
彼女だけの感情論。
だが、彼女にとっては大事な感情論。
というわけで、彼女は、解毒をすることなく、毒を受けたまま闘うことを決断した。
体に力が入らない。
すでに、ハロの逆気や、ラスの氷結・状態異常耐性低下の効果は切れているが、
ビシャの毒だけは、ゴリゴリにまわっている。
そんな状況で、クロッカは、顎を上げて、
「……な、なかなかの連携だったわね。特に……あなた……ビシャだっけ? あなたの魔法は相当なモノだったわ。褒めてつかわす」