115話 オトリの切り札。
115話 オトリの切り札。
クロッカは、全身を包むように、
「ふぅ……」
対魔法攻撃特化のオーラを展開していく。
本当なら、魔壁の魔法を使いたいところだが、魔法を使ってはいけないハンデがあるので、そうするわけにもいかない。
正直、この一瞬で、『30本を超える幻影の中から、わずかな実体を完璧に見破る』というのは、なかなか難しいものがある。
しかし、『全てを防ぐつもりでオーラの膜を張ること』は、クロッカからすれば、そこまで難しいことではない。
とはいえ、流石に、全方位バリアを張るとなれば、
自由に動き回ることはできなくなる。
クロッカは、その場でオーラバリアの展開に集中する。
いつ、魔法の矢が飛んできても対応できるように神経を研ぎ澄ませる。
「……?」
ラスが、幻影・豪氷矢ランク4を展開させて以降、
クロッカは、ずっと、バリアを展開させて、
飛んでくる瞬間を待っている……のだが、
しかし、氷の矢は、クロッカの周囲を漂っているだけで、
なかなか動き出さない。
そんな時間が10秒以上過ぎたところで、
クロッカは、
(まさか、これも、時間稼ぎ? しかし、これだけの魔法を展開させ続けるのは、かなり大量の魔力を消耗することになる……あと数秒もすれば、魔力が底をつきて、ラスは使い物にならなくなるだろう……そんな愚かな手を打つだろうか……)
などと考えていたが、
「っ?!」
そこで、クロッカは気づく。
ラスが気を引いている間に、
ハロが、背後に回り込んでいたこと。
そして、右手に、オーラと魔力を大量に注ぎ込んでいたこと。
(まさか、この二人……ラスの『これだけ派手な、とっておきの切り札』を……ただのオトリとして運用した? なんで、そんな頭の悪いプランを――)
二人の作戦を理解した時にはもう遅い。
二人が、このプランを実行した理由。
それは、たった一つ。
「逆気閃拳!!!」
ハロの『とっておきの切り札』が、
ラスの『とっておきの切り札』を、
現時点では、大幅に上回っている……から。
ラスが、先天的に『豪氷矢を操る技術に長けている』のと同等……もしくは、それ以上に、ハロは、『相手のオーラや魔力を捻転させる技量に長けている』という先天的特質をもっていた。
オーラや魔力の流れを阻害する技能……
流れの阻害を受ければ、当然、出力は軽減する。
使おうと思っていた魔法は使えなくなるし、
複雑なビルドを組んでいた場合は破綻する。
逆気閃拳は、そういった、相手の流れを阻害することを主な目的とした崩し技。
ハロは、センエースが得意としている武術体系『裏閃流』の中で、
この技との親和性が飛び切り高かった。
まだ、閃拳や神速閃拳は、不得手なのだが、
逆気閃拳だけは、センが驚くほどの精度で放つことが出来た。
「うぐっ!!」
クロッカが展開していたオーラのバリアは、対魔法特化に調整しており、
『物理関連の防御力』に関しては、ほとんどリソースを割いていない。
背中に、思いっきり、ハロの逆気閃拳をぶち込まれたクロッカは、
普通に白目で吐血していく。
(ぐっ……なんだ、この、とんでもない攻撃は……こんな必殺技を隠していたのか……威力は大したことないが……私の魔力とオーラが逆流する……っ! と、止められない! うぐっ!)
3組の主力メンバーから、切り札を切られまくったクロッカ。
強烈な貧血を起こした時みたいに、視界がグニャリと歪んで、
意識を保つことが難しい。
鼻の奥がツンとして、万力で潰されているかのようにキリキリと頭が痛む。
(まずい……体勢を……立て直さないと……ラスの魔法が……まだっ)
クロッカが警戒した通り、ラスの魔法が、満を持して飛んできた。
幻影・豪氷矢ランク4を、逆気閃拳のオトリとして使ったのは間違いないが、
しかし、誰も『オトリとしてだけ使ってお役御免』とは言っていない。