112話 ラーズと同等かも。
112話 ラーズと同等かも。
(呪いを二重掛けされている……詠唱つきで放った呪縛と……無詠唱で放った呪縛の二つ……だいぶ、小癪なマネをしてくれる……しかも、これ……無詠唱の方が、ランク的に上……ランク5……いや、もしかしてランク6?)
ビシャが放った魔法は二つ。
詠唱つきのランク4と、
無詠唱のランク6。
ランク6の魔法は、存在値80前後の者が使う魔法。
それほどの大魔法となると、流石のクロッカでも、
存在値を抑えた現状、すぐにブチ破ることは出来ない。
(……センから、『妹の方が大きく成長している』とは聞かされていたけれど……まさか、これほどとは思っていなかったわ……)
ジバ&ビシャ兄妹の成長過程に関して、センからある程度の報告は受けている。
『どちらも才能豊かで、努力家……特に妹の方が、潜在能力が高く、このままだと、十七眷属の面々を超えるかもしれない……』
という報告。
嘘ではない……嘘ではないが……正確でもない。
(この魔法の精度……もしかしたら……すでに、あの『ビシャとかいう魔人』は、十七眷属トップであるラーズと同等の力を持っているかもしれない……)
実際には、まだ、ラーズの方が上。
しかし、ビシャの才気あふれる様は、『すでに老いているラーズ』よりも眩しく輝く。
そして、才能という点では、確実にラーズ以上。
ビシャという可能性の原石を、実際に体感したクロッカは、
(センが、この娘の力を隠そうとした理由……よくわかった。確かに、この力は、隠しておいた方が、都合がいい。……ビシャは『革命を確実に成功させるための切り札』……の一枚になりうる器)
命がけの接戦は、嘘しかない心理戦……賭博黙示録なカードゲームのようなもの。
最後の最後まで『相手に悟られない切り札』を残しておいた方が勝つ騙し合い。
切り札は山ほどあった方がいい。
というか、山ほどなければいけない。
一枚・二枚では足りない。
……それが、彼女の理論。
「……ビシャ、どのぐらいクロッカ様を抑え込むことができる?」
兄であるジバから、そう問われたビシャは、
「この感じやと、あと6秒ぐらいやな……かなりの魔力を込めたんやけど……」
「その間に、攻撃すべきだと思うか?」
「絶対にアカンて。逃げ切るための力だけを極力温存する……それ以外の作戦はない。倒して勝つんは絶対にムリ」
「では、私も呪縛を――」
「兄さんの呪縛、今でもランク3がギリやろ? 意味ないからやらんでええ」
「……そ、そうか……」
辛辣な妹の言葉にシュンとするジバ。
妹は何も間違っていないので、何も言えない。
……そんなやりとりをしている間に、
クロッカを縛っていた呪いがブチっと殺される。
自由になったクロッカは、
「色々と、時間稼ぎを頑張っていたけれど、まだ1分ぐらいしか時間は経過していないわよ。あと4分……耐えられそう?」
と、ビシャ&ジバ、そして、ハロ&ラスに視線を流しながら、そう言う。
「あなた達の実力は、既に大体理解できている……私がその気になれば10秒以内に、この場にいる全員の意識を奪うことが出来る。さて、どうする?」
実際は無理。
10秒以内に全員を潰すことは不可能。
なぜなら、ビシャがいるから。
ビシャの現在の存在値は82。
えげつない数字。
兄であるジバのサポートを受けて、ハロ&ラスのことをオプションとして使用した場合、彼女の実質的な強さは存在値90前後になる。
対して、力を抑えている現在のクロッカの実質的な存在値は100前後。
ようするに、現状、実は、結構、均衡している。
その上で、ビシャは、『クロッカ討伐による勝利を求める』といったような無駄な色気を出すことなく、淡々と『時間切れによる逃げ切り』だけを求めている。
この状況だと、いくらクロッカでも、削り切るのに最短計算で1~2分はかかる。
そのことを、クロッカは理解している。