111話 もっと、クロッカを惨めにさせろ。
111話 もっと、クロッカを惨めにさせろ。
観客席の来賓たちも、イカつい空気になっている。
とはいえ……学生たちのソレとは少々違う。
ここにいる来賓たちは、皆、心の奥で、クロッカのことを見下している者ばかり。
『我儘でサイコで王位継承の可能性がほぼ皆無のクロッカ』のことを敬愛している者などそうそういない。
上級国民たちの中でのクロッカの立ち位置は『できることなら殺してやりたい、生意気なクソガキ』でしかない。
だから、来賓の方々は、口では、
『クロッカ様に恥をかかせるとは何事か!』
『クロッカ様に対し、信じられん態度だ』
『あの魔人は死刑でいいだろう』
『やはり、魔人はいかんな。物事の分別がつかない』
などと言っているが、心の中では、
(面白い。もっと逆らえ。そして、クロッカを惨めにさせろ)
(魔人の質の低さを露呈してくれた上、クロッカの顔にも泥を塗るとは……なかなか、見事な働きだ)
(表立って褒めてはやらんが……心の中では、絶賛してやる。貴様は実に面白い魔人だ)
(魔人の馬鹿ガキよ……どうせなら、もっと、その小娘を辱めろ)
様々な思惑が錯綜する現場。
ビシャの『あまりにも異常過ぎる暴挙』で、とんでもない空気感になっている中、
クロッカは、ビシャに、冷たい視線を向けて、
「私が飼っている忠犬センエースの配下ビシャよ。あなたは、私の命令に、絶対に従わない……その認識で問題ないかしら?」
「いいえ。クロッカ様の命令には従います」
そう言いながら、丁寧にお辞儀をする。
たっぷりの間をかけて、ゆっくりと頭を上げると、
ビシャは、クロッカの目をまっすぐに見つめ、
「クロッカ様、私が指輪を外さへんのは……決して、あなた様を侮っとるとか、あなた様の命令を無視しとるとか、そういうことではのうて、単純に、『ここで指輪を外すことこそが、命令違反になる可能性』を考慮したためです」
「……?」
「先ほど、クロッカ様がおっしゃったように、セン様の命令はクロッカ様の命令でもあります。私は、セン様から、このイベント中は指輪を外すなと命令された。これは、すなわち、クロッカ様から指輪を外すなと命令されたも同義」
「……」
「指輪を外すなという命令と、指輪を外せという命令……どちらを優先させるべきなのか。単純に考えれば、あとからの方が、命令権として上でしょうけれど……しかし、兄は、この手の相反する命令を受けた際に、何度か『やるなと命令されたら、後から誰に何を言われようと、絶対に命令を守り通せ』と、どなりつけられて、袋叩きにあったことがあります。私はそれを、後ろで何度か見てきた。私自身も、似たような経験はあります。ゆえに、私は――」
と、ぺらぺら喋っている途中で、
クロッカが、
「ああ、そうか……」
何かに気づいたような顔で、
「……時間稼ぎをしているだけか……」
ボソっと、そう呟いた。
そのつぶやきを耳にしたと同時、
ビシャは『自分を縛っている指輪』を外して、
ダッっと、クロッカとの距離を詰め、
「呪縛ランク4!!」
と、クロッカの動きを封じる魔法を放つ。
動きを封じられたクロッカは、
「……ランク4の魔法……なるほど……思ったよりもだいぶ高性能ね……」
そう言いながら、魔法をブチ破ろうとする……
が、
(?! ……破れない……なぜ……)
思いっきり力を入れても、
自分を縛っている魔法を破壊することが出来ない。
(……たかがランク4程度の呪縛なら、存在値を抑えた状態でも、流石に破れるはず……なぜ……)
頭をぐるぐると回す。
自分の体を覆っている呪縛の性質を精査する。
その結果、すぐに届く。
(呪いを二重掛けされている……詠唱つきで放った呪縛と……無詠唱で放った呪縛の二つ……だいぶ、小癪なマネをしてくれる……しかも、これ……無詠唱の方が、ランク的に上……ランク5……いや、もしかしてランク6?)